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二十四の瞳のちのレビュー・感想・評価

二十四の瞳(1954年製作の映画)
4.0
「すげぇ映画だ…」と思わず二回も口にしてしまった。

とにかく原作に忠実であるので、小説を読んでいれば面白味が倍加する。前半は実に丁寧で、先生と生徒が徐々に心を通わせる描写が優しく表現されている。原作の持つ雰囲気に加え、瀬戸の美しい山々などの背景や、生々しい田舎の漁村が映像化されたことで、更に深く味わうことができる。特に先生の見舞いから帰る船の情景は見事だった。
また屋島、栗林公園、金比羅といった観光名所の当時の姿を見ることができる史料的な役割も果たしており、実際にこれらの地を踏んだ者としては実に興味深かった。
この作品の要素といえば唱歌は外せない。これも映画化されたことで更に印象強くなる。ミュージカルか何かか?と思うほどBGMが多用されており、死を連想させる場面で賛美歌「慈しみ深き」まで流れたのには参った。
最も見事だと思ったのは配役である。一年生から六年生まで成長した姿があまりにも瓜二つで、撮影期間どうなってんだよと思ったら、全国から1000組以上の兄弟をオーディションで選んだそうである。監督の執念に脱帽である。特にコトエがそっくりだったのには感心したが、仁太がそっくりだったのには何故か笑ってしまった。
戦争映画としての描写も良かった。公開されたのが昭和29年、まだ戦後10年経っていない頃であるから、スタッフも役者も皆戦争を肌で感じてきた人ばかりだ。ゆえに説得力も増す。大吉が「一億玉砕できんかった」とこぼしたシーンなどは何かリアリティがあった。『この世界の片隅に』との共通点も多く見つかる本作だが、そこの空気感だけは圧倒的にこちらが上だろう。

しかしやはり珠玉のシーンと言えばソンキの「この写真だけは見えるんじゃ」だろう。これは小説でもボロ泣きしたが映画でもダメだった(欲を言えばもっとめくらめくらと言ってほしかったんだが)。歓迎会の直前に新しい一年生らとの出会いが描かれているので、戦争で失われたものへの意識がより強調されている。

それでも見終わった後に温かい気持ちになれるのは、やはり心の深いところで繋がっている師弟愛が丁寧に描かれた作品だからだろう。
ただ150分というのは長い。ポンポさんもそう言ってるし。
ち