三樹夫

小説吉田学校の三樹夫のレビュー・感想・評価

小説吉田学校(1983年製作の映画)
3.2
アメリカから独立し対日講和に至るまでの吉田茂奮闘記の前半と、吉田茂VS鳩山一郎陣営というかVS三木武吉の権力争いから自由党と民主党が合体して自由民主党が出来るまでの後半から成る。前半は白黒で後半はカラーとなっている。
監督森谷司郎、撮影木村大作の『八甲田山』コンビに、プロデューサーは『太陽を盗んだ男』の山本又一朗、角川春樹事務所も企画協力しているという結構ごちゃ混ぜな布陣に、音楽は『仮面ライダーBLACK』の川村栄二に主題歌はベーヤンと変な座組のオールスター映画で、前半は吉田茂の森繁久彌が主役、後半は事実上三木武吉のトミーが主役になっている。

吉田茂は反米保守の一応護憲派の再軍備反対、鳩山一郎陣営は改憲派の再軍備賛成という対比になっている。吉田茂は戦後焼け野原になった惨状を見て絶対に再軍備だけはしないぞという人物として描かれている。戦争でえらい目にあった人は絶対戦争はいかんと、まあそうなる。ただ実際は自衛力を禁じた現行憲法には違和感を持ちつつ、急激な再軍備は国力が見合っていないという憲法観だったので、若干脚色されている。
吉田茂と三木武吉はお互い杖を突いており、表裏一体の人物となっている。廊下ですれ違うシーンがそれをよく表している。
後半はワンマンっぷりが目に付き総理の座から降りようとしない。吉田学校というのは池田勇人や佐藤栄作など、吉田茂の門下生から成るのグループとなるが、自分の息のかかった政治家で固めて盤石な基盤を築いてくる。そこに三木武吉が懐柔策を用いて、社会党や広川弘禅の協力を取り付け挑む。

基本的には政治家ファンタジーであり、政治家がかなり漂白されており、カッコいいことになっている。ダーティーな部分や情けない部分などカッコ悪いところは省略され、とてつもない有能集団かのようになっていて、エンディングで流れるベーヤンの主題歌がまた政治家カッコいい感を煽ってくる。この主題歌をカラオケで歌ってる政治家いそうで、政治家が観たら結構な割合で気持ちよくなれる映画になっているように思う。そのためか、全体的には間延びしており、後半の権力争いもドロドロというよりかは淡々としているし、政治家カッコいい方向に舵を切られている。

この映画の見どころとしてはオールスター役者の演技であり、特に演じている政治家に寄せた演技が見どころになっている。特に政治家本人演技が極まっていたのは吉田茂の森繁久彌と田中角栄の西郷輝彦だった。悦は「ムハハハハ」という笑い方が印象に残る。
ほぼおっさんしか出てこないおっさん映画であり、唯一の女性は夏目雅子でしかも出番は少なく、数少ない若者は石田純一という純度激高のおっさん映画になっている。
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