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浮き雲のICHIのレビュー・感想・評価

浮き雲(1996年製作の映画)
4.0
失業した夫婦が職探しに苦労してギリギリまで追い詰められてレストランを始めるまでを描く。数多の映画だと、大声出して喧嘩したり愛のこもった言葉をかけてみたり、最後は笑顔で抱き合ったり,つまり夫婦の泣き笑いがふんだんに描かれるのだろうが、カウリスマキの映画なので登場人物は泣きもしないし笑いもしない。無表情のまま卒倒するか無言で酒を煽り続けるか流しで吐くか2人で黙って空を見上げるかするだけだ。そこにこの監督の潔さと戸惑い続ける人間への慈しみみたいなものを感じる。そして何より省略が素晴らしい。山中貞雄の「百万両の壺」のような、省略して繋げる映画の心地よさを存分に味わえる。ラストでレストランのオープン当日に客が来ずに絶望感ただようなか、ようやく最初の客が来て、そのあと座席が埋め尽くされた店内のショットに飛ぶ。その見事さ。
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