真綿

脱獄広島殺人囚の真綿のレビュー・感想・評価

脱獄広島殺人囚(1974年製作の映画)
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一度目の脱獄ののち植田(松方弘樹)が神戸の映画館にて再び逮捕される場面では、警察はどうせ発砲してこないものとして高を括られている一方で、発砲可能な存在であるところのMPに対しては素早く投降の判断がなされる。二度目の脱獄後には、小島(西村晃)が米軍のトラックに──まさしく犬猫のように──轢き殺される場面もあり、これらをどこまで「実録」と考えるかには留保が必要であるようにも思うが、ともあれ戦後という時代の傷が刻み込まれたフィルムの一つであることには違いない。

脱獄に成功するか否か、再び逮捕されてしまうか否かという緊張の持続によりサスペンスが高められているかといえばそうでもなく、時にジャック・タチめいてさえみえるステージングとアクションにより「脱獄」という題材が処理されているのは「脱獄もの」としてはむしろ珍しいような。

その事後性ゆえに、あるいはサウンドトラックというものの原理的な性質として、一人称であるはずのボイス・オーヴァーは画面上の松方の身体とはズレながら三人称的なニュアンスを含んで生起する。途中からそれが酒井哲によるナレーションなのか、松方の声なのかがすっかりわからなくなってしまった。
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