不在

ブルジョワジーの秘かな愉しみの不在のレビュー・感想・評価

4.8
この作品は完全にコメディだが、いわゆる一般的なそれとは大きく異なる。
一番の違いは、ブニュエル含め、映画の人間達が誰一人として観客を直接的に笑わせようとしていない点だ。
役者はまるで自分達が崇高な、哲学的弁証によって人の内面を抉り出す芸術映画に出演しているかのように役を演じている。
存在しない国の情勢について語り合い、存在しないテロ集団に命を狙われ、軍人の信じ難い妄言に真摯に耳を傾ける。
彼等はこの馬鹿馬鹿しい世界を、大真面目に生き抜こうとしているのだ。
これぞまさに間接的な、シュールなお笑いと言える。
ブニュエルはシュルレアリスムによる非コメディ的コメディを成し遂げた。
金持ちが田舎道をただ歩いているシーンはまさに発明と言っていい。
怠惰や堕落を極め、虚無と欺瞞に満ちた人間を表すのに、これ以上相応しい撮り方はない。
不在

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