もっちゃん

ブルジョワジーの秘かな愉しみのもっちゃんのレビュー・感想・評価

3.6
後期ブニュエル作品。ブルジョアジーの生活を面白おかしく、皮肉たっぷりに描いている。コメディ要素が強く、少しもシリアスな要素がないが、夢と現実の近藤によって非常に重層的な作風となっている。

上層階級と下級階級の間の反発が特に大きかったフランスで撮影されている。だからだろうか、ブルジョアジーの鼻につく感じは上手に表現されている。その板についてる感じが逆に彼らを滑稽に哀れに見せていたりもするのだが。
彼らは来客者に遮られ、いつまでたってもご飯にありつけなかったり、テロに命を狙われたり、汚職への警察の介入に常に怯えながら生活している。それが一種の息苦しさを思わせ、ブルジョアジーの負の側面を浮かび上がらせる。

下級階級の中ではブルジョア階級が羨ましいかという質問にきっぱり「NO」と答える人までいるらしい。それはブルジョア階級になれば、悩み事が増えてしまうという理由からである。
言いえて妙である。階級闘争を勝ち抜き、社会階層を駆け上がっても別の悩みが増えるだけなのかもしれない。

作中でブルジョアジーたちが夢から夢へと旅をするシークエンスがある。悪夢から覚め、安堵し、また悪夢へと戻る。この重層的な仕掛けは次第に現実を認識できないレベルまで持っていく。「これは現実か、夢か」と観客が判別できなくなってくるということだ。
ラストの彼らが並んで歩くシーンもそれが現実であるのか、夢であるのかをはっきりとは明示していない。だが、彼らがどこかに去っていくこのシーンは今作のテーマを表しているのだろう。彼らはまたどこかに去っていき、虚勢を張りながら生きていくのだろうか。飯にありつける日は来るのだろうか。