伊達巻

4ヶ月、3週と2日の伊達巻のレビュー・感想・評価

4ヶ月、3週と2日(2007年製作の映画)
5.0
これは物語の本筋ではないのだけれど疲れ切ったガビツァのことをパートナーのアディがなんとか説得しようとしている様子を見ていつかの自分を見させられているようで居た堪れなくなった。「人は誤ちを犯す」というのは医者の台詞だったけど、この映画は人のことをまさにそうやって見せる。あの医者に関しても約束守られなかったのはストレスだろうしそもそも善意で動いているのだからその点は尊敬できても人としては最低でそんなこんなであいつへの感情が言葉にならない悔しさを抱きながら迷子になったりする。オティリアに関しても「優れた主人公」って感じは決してなくておまえこの一大事にパーティーいくか普通とかあるんだけどでも考え抜かれることのなかった複雑な気持ちがなんとなく分かってしまう気もして、やっぱり感情が迷子になる。ガビツァにもおれがオティリアの立場だったら正直かなり頭にきちゃうんだけど状況も状況だし、はじめに書いたアディもそう。みんながみんな何かしらの誤ちを犯しながら生きていて取り返しのつかない不幸を体験している。こうした両面性のようなものののせいで例えようのない息苦しさがずっと続くんだけど見るに耐えないというのは殆どなくてそれもカメラの距離感というのが絶妙で、熱すぎず冷たすぎずのなんとなく場に相応しい常温みたいな印象があって映画に神経が集中する。社会には身体における差異とはもはや別物として不必要に肥大化した「性差」がそこかしこに存在していてそのほとんどが男性の無自覚な特権によって安定している。夜道をひとり怯えて歩くことの恐怖は手の中にある死んだ物への恐れでもありながらひとりの「男性」としての自分が生きる上でほとんど実感し得ない性差の経験として深く記憶に刻まれる。性差のみならずあらゆる「格差」についての話でもあってそれを体現する最低の誕生日パーティなどがある、バースデーソング聞いて苦しすぎて泣きそうになったのはさすがに初めて。冗談の一才効かない悪夢だった。死ぬほどどうでもいいのに全てが癪に障るような会話も絶妙すぎて笑いそうになるんだけど真正面に座るオティリアとたぶん何回か同じことを思い出したりして顔が引き攣る。凄まじいワンショット。どこをとっても孤独な感情と社会の視線が交錯していて、淡々と話が進んでいきながらもグロテスクな深淵というものが浮かび上がってくる。ラストショットがあまりにも素晴らしくて放心してしまった。ここ最近観たラストで一番良い。エンドロールで流れる曲が全く頭に入ってこない
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