Omizu

桑港(サンフランシスコ)のOmizuのレビュー・感想・評価

桑港(サンフランシスコ)(1936年製作の映画)
3.7
【第9回アカデミー賞 録音賞受賞】
『影なき男』W・S・ヴァン・ダイク監督の代表作。主演のジャネット・マクドナルドはミュージカル出身者として圧巻の歌声を披露している。アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞(スペンサー・トレイシー)、原案賞、助監督賞、録音賞にノミネートされ、録音賞を受賞した。

1906年に実際に起こったサンフランシスコ大地震をクライマックスとしたヒューマンドラマ。

酒場の経営者、そして地元の顔役として幅をきかせているブラッキー(クラーク・ゲーブル)のもとに、火事で職場を失った歌手メリー(ジャネット・マクドナルド)がやってくる。そこからメリーとその歌声をめぐりブラッキーの腐れ縁の神父ティム(スペンサー・トレイシー)やブラッキーと対立する地主バーリー(ジャック・ホルト)と騒動が起きる。

そんな三人の男の出現によってメリーは揺れ動く。

そんなときに大地震が起こり建物は決壊、大規模な火災も発生し多くの人が亡くなったり怪我を負い、住むところをなくしてしまう。

未曾有の天災によってメリーとブラッキーは本当の愛に気付く。

王道ロマンスではあるが、臨場感たっぷりに終盤描かれる大地震という実際の出来事によって生々しい印象が残る。

裏テーマとしてサンフランシスコという街の現状と復旧ということも描かれる。サンフランシスコは今でこそ大都市だが、大地震前は街も人も堕落しきった場所であることが示される。街が完全に破壊されることによって、地獄からのし上がるエネルギーが湧き上がっていく。

サンフランシスコという街自体を背景にした異色ロマンスと言えるだろう。

ジャネット・マクドナルドの歌う「サンフランシスコ」は素晴らしい。『ジュディ 虹の彼方に』でもジュディ・ガーランド(を演じるレネー・ゼルウィガー)が歌っていた。スローテンポからアップテンポまでこなせる楽しい曲で、ラスト「ハレルヤ」と重ねて歌われるところは感動。

ヴァン・ダイクは過不足のない演出でスケール感のあるラブストーリーを丁寧にさばいており好感が持てる。『影なき男』のコメディサスペンスも好きだったが、ラブコメを基調としつつそつなくこなせる職人監督として非常に優秀なことが分かる。

ただ、なぜブラッキー役のクラーク・ゲーブルではなく出番が少なく存在感もあまりない神父役のスペンサー・トレイシーが「主演男優賞」にノミネートされたのかが謎。助演なら分かるんだけど絶対に主演ではないだろ。
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