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THE BEATLES/マジカル・ミステリー・ツアーのTnTのレビュー・感想・評価

3.9
ビートルズってトップを行きつつこんなアングラというかサブカル的なものを堂々と作っていたんだなと感心。しかし、清々しいほど酷い映画。久しぶりこんな荒唐無稽な映画に出会えた。ビートルズ自身で撮ったということで素人&サイケデリックでイギリスのグロテスク(滑稽でブラックユーモア)さの詰まった55分の作品。好きだが変な映画。

まず、ビートルズファンでもついていけないことは間違いない。マジカル・ミステリー・ツアーと銘打っておきながら、冒頭で観客を置いてきぼりにしたまま、ツアーのバスはどんどん進んでしまうのだから。とにかく、今の状況が永遠と掴めない。唐突に起承転結の承と転ぐらいの間を見せられ、気づいたら歌が始まったり、夢のシーンになったり、次のシーンがきてしまう。この理解のおいつかなさは終盤むしろ私たちの頭の中を「もうどうでもよくないか?」で満たしだし、気がつくとラストの大団円に巻き込まれているのである。とにかく、歌が入ると映像もぎゅっと引き締まり、感情が乗る。特に(自身が好きなだけかもしれないが)「I am the Walrus」はかなり狂った世界だ。ザ・サイケデリックで、MVとしてはどれも今でも見ごたえはあるだろう。

また夢のシーンはかなり面白くて、太ったおばさんとやせっぽちのおじさんたちの繰り広げる夢は必見であると共に、「何故こんなものをみせられているのか…」とも思うだろう。ジョンレノンがゲロみたいなぐちゃぐちゃな食い物を延々と太ったおばさんに笑顔で食わせようとしている夢はサイコパスすぎて好きだった。なかなかにシュールで、時折それはブニュエルの「黄金時代」に通ずるものがあるように思えた。またこのシュールさは見てる時は辛い(笑)が、見終わってみるともう一度見たくなる中毒性がある。デヴィッド・リンチの「イレイザーヘッド」がリピーターが沢山来たように、今作品もその悪夢性に惹かれるのだ。

とにかく酷い演出、脚本、編集だったが、見て損は…なきにしもあらず。でもハマると抜け出せないような中毒感もある。あんなに酷いと思っていたとに、読後はわりと好印象。ラリった気分を体験したいなら見るべし。

ラストシーン、あのヘタな踊りは完璧にドリフターズに影響を与えていると思う。
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