なべ

花様年華のなべのレビュー・感想・評価

花様年華(2000年製作の映画)
5.0
〈本文は4Kレストア版とほぼ同じ〉

 ああ、やっぱりいい。赤いテーマカラーにもマギー・チャンのチャイナドレスの着こなし。独特なハイカラーが映える。たぶん20着以上あったよね、数えてないけど。もうっとり。久々に会うチャウとチャンさんに懐かしさがせり上げてきた。もともとノスタルジックな映画なのにそれを20年ぶりに観るという懐かしの相乗効果で、懐かし酔いしたわ。
 相も変わらず2人はじれったい恋愛をしてる。早く寝ちゃいなよ!と何度思ったことか。
 ウォン・カーウァイ作品の中で、比較的しっかりストーリーがある花様年華はプラトニック不倫の極みともいえる作品。2人の距離がどんなに縮まろうと結ばれないのだ。どのシーンもどのセリフも、愛の高まりを充分感じさせるのにふたりは一線を越えない。ついにベッドインか!と確信しても、やっぱり寝ないんだな。チャンさんが「今夜は帰りたくない」って言ってるのに。そんな結ばれそうで結ばれない、実りそうで実らない「予感」で花様年華はできている。予感がフィルムに封じられてるからこの映画はいつまでも美しく、いつまでも色褪せないのだ。
 終盤、フランスから独立したカンボジアの遺跡にチャウがいる。遺跡に穿たれた穴に自らの秘密を吹き込んでいる。結構長い時間。成就しなかった想いはそんなに長いんだ。ああ、切ない。
 あんなにあった予感は行き場を失い、余韻に変わってしまった。
 一部始終を覗いていた(実際、覗き見してるようなカットも多いんだよな)観客だけが遺跡に封じられた秘密を知っていて、今も過ぎた時間の中で2人の想いがさまよっているかと思うと、身がよじれそうになる。だけどこの悶絶、嫌いじゃない。花様年華がいつ見ても懐かしくて切ないのはそういう理由。
 唯一、チャウさんがクチャラーだったのは残念だが、なかったことにしてやるか。
なべ

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