ぼさー

花様年華のぼさーのレビュー・感想・評価

花様年華(2000年製作の映画)
4.1
同僚など社会的な繋がりのある既婚の人と、(仲間や友人として)親しくなる過程で淡い恋心を抱いたことはないだろうか?
そういう相手の言動から自分に好意があるのかもしれないという前提で相手との行く末を妄想した経験はないだろうか?

さらには社会的な立場を強く意識しながらも、社会的にご法度な恋愛に片足を突っ込もうとしたり、その上で実らない恋と知りながら相手への好意をお互い告げ合ったことがあるとしよう。僕はある。

本作ではそういう体験を思い起こさせた。配偶者や恋人に軸足があるからこそ、ごっこ遊びのようにして本気ではない恋を楽しむ主人公の二人。

二人とも恋は一過性のものとわきまえていて深入りはしないように距離を保っている。そういう慎み深さが全編に渡って描かれる。

チャンは二度、チャウの胸で泣く。一度目は夫が不倫している事実に苦しくなって、二度目はチャウとの別れが惜しくなって。
一度目のまだ夫を愛しながら自分にも好意を向けてくれる程度の恋愛レベルがチャウにはちょうどよかったのだろう。
ごっこ遊びでのチャンの二度目の涙によって、チャウはチャンが自分に本気の恋愛感情を抱いていることを理解する。だからチャウはチャンと離れる決心をしたのだと思った。チケットが手に入ったら一緒にシンガポールに行こうなどと誘いながらも、きっと彼女を連れて行く気はなく、一方的に別れる決心をしたんだと思う。

だからこそマギー・チャン演じるチャン夫人の視点で観ると切なくて悲しいのだろう。
第一線は越えられないなどと告げて、自ら相手に釘を刺して距離を保っていたつもりだったのに、本気で相手を好きになってしまったことの切なさ。
ずっと好きだと言えずにいるチャンの美しさがひときわ映えていた。

狭苦しい廊下や部屋の構図と見切れる大きさに寄って撮られた人物の構図。廊下で譲り合うようにすれ違う時にお互いが色気を感じ合うくらいに超至近距離になる演出とか、溜息が出そうなほどの映像感覚だった。
ぼさー

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