鰯

黒い罠の鰯のレビュー・感想・評価

黒い罠(1958年製作の映画)
3.8
国境沿いの影

メキシコと接するアメリカの田舎町ロス・ロブレスで有力者が車に爆弾を仕掛けられ、爆殺される。新婚旅行に来ていたメキシコ人麻薬捜査官のバルガスは真相を追う中で、アメリカの老刑事クィンランによる不正捜査に気づくが...

オープニングの長回しから町の姿が丁寧に描かれて、何となくそこに行った気になります。
事件の捜査が中心に置かれているものの、ミステリーとしてはそれほど面白くないと思いました。何と言ってもラストで明かされる拍子抜けするような真相。あくまで謎解きではなく、魅力的なキャラクターが法や正義の及ばない片田舎でもがく様がおもしろい

お金や名声のための謀略は茶飯事だし、脅しや嫌がらせにも躊躇いはなし。さっきまで協力していた人間があっさりと立場を翻すことも。別れたらすぐに相手の悪口を言い始めるシーンなどは笑いました。そういうぐちゃぐちゃの人間模様には魅入られましたし、どの人物にも人間臭さがありました
ある意味正しさのために真っ直ぐすぎる主人公バルガスが一番狂ってるというか、どうかしてると思う。後奥さん。情緒不安定にもほどがある。

端役が結構印象的で、バルガスが電話を借りた店の受付の女性が盲目だったこと、モーテルの癖の強い夜勤の男性、バルガスの妻に壁越しに語りかける女性など、変なところが頭に残りました
ベストアクトはクィンランの馴染みの酒場の女性ターニャを演じたマレーネ・ディートリヒでしょうか。艶っぽくてそれでいて薄幸そうな表情。怖さを感じるような目力もあるけど包容力もありそう。だからあのラストは個人的には最高でしたね

調べてみると私の見た版は、監督にとってのベストではなかったそう。希望に近いバージョンも見てみたくなります
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