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KAMIKAZE TAXIのTOTOのレビュー・感想・評価

KAMIKAZE TAXI(1995年製作の映画)
4.5
「役所広司の最高傑作――」

『PERFECT DAYS』でカンヌ最優秀男優賞を受賞した役所広司だけど、キャリア初期のこの作品における日系ペルー人・タクシードライバー役の芝居が、彼の最高傑作だと信じて疑わない。

この作品は今や国際的名匠となった原田眞人監督の黎明期の作品で、知る人ぞ知るビデオ・シリーズ「タフ(木村一八主演)」で培った作風(バイオレンスとシニカルさの融合)をつきつめた集大成でもある。

今思えば約3時間あるオリジナル版は無駄でひとりよがりで冗長なシーン(自己啓発セミナーや旅館の宴会シーン、等)が多かったが、これも監督の若さゆえだったのだろう。
それでも他に類を見ないキャラクター造形の妙味に感心させられる。

まずヤクザの親分・亜仁丸を演じたミッキー・カーチスの役柄からして、飄々としてコミカルで、でも怖いという、実に面白い設定だ。これは後の北野映画を髣髴とさせる。物語のラストはこの亜仁丸と役所広司演じる寒竹二人の会話なのだが、これは世界に誇れるラストシーンだと思う。何度見ても感心する。

同じくジャズ好きの強面SPを演じたシーザー会長の存在感も素晴らしいし、矢島健一は「タフ」で得たキャラクターを北野武監督「ソナチネ」で熟成させ、再び原田組に持ち帰った感すらある、やはり飄々としてコミカルでシニカルな役柄で、この作品に厚みを持たせている。

そしてそして役所広司だ。
冒頭で日系ペルー人と書いたが正確にはペルー育ちの日本人だ。その台詞はうろ覚えの日本語を必死で喋っているペルー人そのものだ。
よくわからない言葉があると、苦笑いで「ええ、そうですか」と曖昧に答えるあたり、実にリアリティがある。
一見、穏やかだが、その裏に日本人には到底、想像もつかない残虐な暴力と悲劇に晒されて来たペルー人の悲哀と、瞬時に殺戮マシーンに切り替わる説得力が凄まじい。

最後に、作中繰り返し流れるBGMは、伝統的な南米フォークロアかと思いきや、川崎真弘のオリジナル・スコアである。「コンドルはとんでゆく」にひけをとらない見事な音楽で、目を閉じれば雄大なアンデス山脈の情景が浮かぶ。
流石としか言いようがない。
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