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人斬り与太 狂犬三兄弟のbluetokyoのレビュー・感想・評価

人斬り与太 狂犬三兄弟(1972年製作の映画)
3.0
仁義なき戦いの序章みたいな作品らしいが、いまさら見ても、いったい、どうやって化けたら、仁義なき戦いになるのかさっぱりわからないほど、面白くはない。仁義なき戦いよりは、同時期の作品、まむしの兄弟シリーズのパクリ、というよりも劣化版、出来損ない、としか思えない。
たとえばタイトルの三兄弟だが、なにをもって三兄弟なのかわからない。主人公の権藤勝男と権藤とつるんでいる大野正吉は、まあ、兄弟と言えるのだが、三人目が出てこないのだ。室田日出男さんの演じる五十嵐武男という男が、しょっちゅう、権藤と大野とを叱りつけていて、目立っているので、五十嵐が三人目のなのかと思ってしまう。三人目は蛇をいつも持参している谷という男らしいが。

だが、任侠もの、まむしの兄弟シリーズを含めて、とはやはり革新的に異なる部分がある。
主人公が最後に亡くなってしまう点だ。任侠ものなら悪役が亡くなるが、この作品では、いつもなら切られて亡くなる、渡辺文雄さん演じる悪役は、まったく無事なのだ。アメリカンニューシネマやヌーヴェルヴァーグの気狂いピエロを思い起こさせる。
ストーリーがほとんどない。任侠ものだとストーリーをかなり重視するが、この作品はあえてストーリーは考えていない。ただ、面白くない理由は、ストーリーがないところなのだが。
主人公に倫理観がない。任侠ものだと主人公は倫理的で紳士的ですらあるのに、この作品の主人公は、善意と情愛はあっても、殺人、盗み、レイプを躊躇なくやってしまう。だから最後は殺されてしまうわけだが。

簡単にあらすじ。
冒頭は、村井組の権藤と大野が対抗する暴力団、北闘会の組長を刺し殺すところから。権藤は刑務所に入り、勤めを終えて晴れて出所。普通なら組員総出で出迎えてくれてもいいわけだが、大野がポツンと待っているだけである。
なんでそうなるのか、しばらくしてわかった。村井組と北闘会は、手打ちをしてしまったのだ。いまは仲良くやっているわけだ。

面白くない権藤は大野とともにいろいろと問題を起こすが、そのたびに、村井組の五十嵐に怒られていた。

こんなことをやっていてもカネがないので、北闘会の賭場で騒ぎを起こした谷というやくざものを仲間に引き込んで違法風俗店を開いてカネを荒稼ぎしていた。

だが、村井組と北闘会にとって、そんな権藤と大野が目障りになり、結局、違法風俗店は解散させられる。

権藤と大野と谷が暴れていると、谷が北闘会に捕まり殺された。
さらに、大野は、実家にカネをせびりに行って、家族に殺された。

一人になった権藤は、村井組の組長を殺す。
村井組は、権藤を追い詰めて射殺する。

ここで終わればいいのだが、最後は、違法風俗店をやっていたとき、道代という女をレイプしていて、それで、道代は妊娠していた、というテロップで終わりである。完全な蛇足でいらないシーンなのだが。
余韻を持たせたいなら、権藤の死亡で終わりにするべきであった。

ある意味、画期的な作品ではあるけど、残念ながら面白くないし、遥かに完成された仁義なき戦いがあるわけで、史料的な価値しかない。
とはいえ、最後の権藤が追い詰められていくシーンは鬼気迫るものがあり、さらに儚さも感じさせるいいシーンではある。
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