ほーりー

首のほーりーのレビュー・感想・評価

(1968年製作の映画)
4.6
【それは果たして正義か狂気か】

前から好きな作品だったけど、改めて観てとんでもない傑作だと感じた。

森谷司郎監督、小林桂樹主演、橋本忍脚本のサスペンス映画『首』。何年か前にCSで放映していたのを録画したが、これはぜひ商品化してほしい作品のひとつ。

反権力主義で有名だった正木ひろし弁護士が、若き頃に担当した『首なし事件』を映画化した作品で、これが本当の "衝撃の実話を映画化" というやつ。

1968年製作の映画なので既にカラー映画が当たり前の時代にも関わらず白黒で撮影しているのは、生首がでてくるショッキングさを抑えるためかもしれないが、ドキュメンタリータッチを狙ったものであり、全編に渡って異常な緊張感がある。

そしてその緊張感の源になっているのは小林桂樹扮する正木ひろしの異様な正義感に他ならない。

本作のあらすじをざっと説明すると、ある炭鉱夫が警察の取り調べ中に脳溢血で亡くなるが、鉱山主は死因に疑いをもち、正木のところへ死因の再調査を依頼する。

当初、正木は形式上の手続きを済ます予定だけだったが、警察や担当検事の不穏な態度から、正木は被害者は拷問死によって亡くなったのではないかと疑う。事件解決に心血をそそぐ。

やがて正攻法だけでは事件解決できないと悟った正木がとんでもない手段を使い出すところから、本作は単なるサスペンスではなくサイコスリラーのような趣になってくる(さらに医学部の小遣い役の俳優さんの薄気味悪さが怖さに拍車をかけている)。

これを異常と言うべきか言わざるべきか。

狂気のように見える正木の正義であるが、本作の舞台となった太平洋戦争真っ只中、時代自体が狂気だった日本において、狂気じみたものでなければ対抗できなかったかもしれない。

……と思わせておいて、戦後になっても全くスタンスを崩さない正木の姿を描くことによって、理不尽があの時代だけのものではなく、いまだ現代にも続いており、それに対する正木の終わりなき戦いが続くことを示唆している。

まさにダークヒーロー。

■映画 DATA==========================
監督:森谷司郎
脚本:橋本忍
製作:田中友幸
音楽:佐藤勝
撮影:中井朝一
公開:1968年6月8日 (日)
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