櫻イミト

首の櫻イミトのレビュー・感想・評価

(1968年製作の映画)
4.5
「日本沈没」(1973)「八甲田山」(1977)のコンビ=森谷司郎監督×橋本忍脚本が初めて組んだ一本。実際にあった警察の隠ぺい事件を描く実話映画。原作は「真昼の暗黒」(1956)と同じく人権派弁護士の正木ひろし。

戦時中の1944年。茨城県の炭鉱作業者が無実の容疑で取り調べ中に死亡した。警察は死因を脳溢血と説明するが、炭鉱主から相談を受けた正木ひろし弁護士(小林桂樹)は拷問死との疑念を抱く。。。

異様なテンションが最後まで続く物凄い完成度の映画だった。

序盤、「え?死んだ!」の台詞と同時に遠くの蒸気機関車が汽笛を鳴らし走り出すワンカット。その見事なシンクロぶりに、ただならぬ気配を感じて鑑賞の姿勢を正した。機関車はその後も(時には走行音で)映画にアクセントを付け、終盤にはそれがフラッシュフォワードだったと気づかされる。

演出、カメラワーク、小林桂樹の芝居と、すべてが緻密にシンクロし、その完璧性の綱渡りが観ているこちらにも緊張を強い続ける。主人公は「戦争が人間も自分もおかしくさせている」と自問自答するが、戦争が終わっても変わらないと言う落としどころに本作の強い主張を感じた。

これぞ知られざる傑作と呼べる一本。昨年の北野武監督の同題作品とは桁違いの力作だった。
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