後に横綱になる初代若乃花の大関時代に作られた1956年の作品。師匠となる大ノ海（花籠親方、演じるのは坂東好太郎）に北海道室蘭でスカウトされ、入門するところから1956年9月場所の大関時代まで。入幕以降は、若乃花が本人役で出演している。本作では、四股名を「若ノ花」とする時に、大ノ海が自分の若い頃の四股名を与えると言うシーンが登場する。現在は、若乃花幹士は初代若乃花とされるが、若乃花本人は大ノ海をリスペクトして自分は二代目若乃花であると語っていた。ちなみに映画製作時は、「若乃花幹士」ではなく、「若ノ花勝治」。本作の最大の見どころは、白黒ではあるが、横綱になる一年ほど前の若ノ花の稽古風景も含めた鮮明な画像が見られること。本作には当時の実際の取り組みのフィルムも挿入されているが、画像の鮮明度ははるかに落ちる。
取り組みで見ごたえがあるのは、直前に長男を亡くして数珠を首にかけて場所入りした1956年9月場所のもので、初日から12日目までの全取り組みがノーカットで見ることができる（ちなみに横綱千代の富士も三女乳幼児突然死症候群で亡くした場所に数珠をつけて場所入りをし、最後は北勝海との優勝決定戦を制して優勝）。ただし、当時のものは、取り組み中であるにも関わらず、勝負審判や行司のアップが挿入され、勝負が決まる肝心の場面が見えなかったりする取り組みもある（例：アナウンスでは「二枚蹴り」と言っている時に画面が切り替わって、足を蹴る場面がみえないなど）。他の場所は、新入幕の取り組みは、ある取り組みの一部分のみ、関脇時代に横綱栃錦と二度の水入りの後、二番後取り直しですくい投げで負ける一戦はダイジェスト。1956年1月場所の関脇時代は、横綱吉葉山に浴びせ倒しで負けとされた微妙な一番（若ノ花の下手ひねりが優勢に見える）、横綱鏡里に勝った一番はノーカット。他に朝汐戦もすべて若ノ花が勝った一番が数番収録されている。
収録されている相撲では、若ノ花は軽量であるにも関わらず、巨漢の吉葉山や鏡里にも胸を合わせたがっぷり四つで勝負している。「呼び戻し」で勝った一番も収録されているが、他の一番でも差し出から掬う力が強い印象があり、前に出る圧力もあり、押し相撲相手の離れて取る相手も苦労しない内容。
北原三枝が若ノ花の妻役。若ノ花が入幕した時に記念撮影をする写真館のカメラマン役で長門裕之が1分ほど顔を出している。芦川いづみと浅丘ルリ子が1956年9月場所12日目の取組後にインタビューを受けている時に記者と一緒にファンのひとり？として出演している（クレジットはなし）。

まだ大関の段階でつくられた映画なのか。本人が演じているが、自分の息子を火傷で失ったところまで演じるのは今では考えられない。しかも死の翌年！　昔の相撲の映像多く楽しい。北原三枝きれい。

意外とそっくりの青山恭二が序盤若ノ花を演じ、中盤以降現役で最盛期の自身が出演し、当時の取組が記録フィルムで観れる醍醐味の他、父・一人息子を失ない重病で無念の休場を含む人間ドラマも感動的な、森永健次郎監督の佳作。坂東好太郎が人情味溢れる花籠親方を好演し、北原三枝との交際場面で若ノ花の照れている表情が微笑ましかった。