ケーティー

ドラえもん のび太の創世日記のケーティーのレビュー・感想・評価

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のび太がつくるもう1つの地球に衝撃の展開が起こるSF作品。子ども向けではあるが、着想がやはり面白い。


自由研究として(これが自由研究として成立するのかという疑問はさておき)、のび太が日本創世セットで、自分だけの地球をつくる。しかし、その地球は現実の地球とは微妙に異なる世界になっていって……という物語。

本作は、ドラえもんやのび太たちを神の視点に据えるとともに、人間とは異なる昆虫人間を登場させることで、徹底して人類を客観視、相対化していく。そうすることで、人類とは何かを考えさせていく。この構造は流石である。また、全く違う地球ではなく、少し違う(しかし、実際は全然違う)地球を登場させるというあたりもうまい。全く違うという設定だとその設定についていくだけで大変になるリスクもある。また、少しだからこそ、何が違うんだという興味も自然と沸く。次第にその謎を明らかにしていくミステリー的な要素も楽しめるのである。

全体としては、ある意味、寓話集のようなつくり。様々な神話、お伽噺、実際の歴史などをモチーフにしながら、地球の誕生を追っていく。そのつくりは、さながら教育ビデオのようでもあり、やはり、そこは子ども向けとも感じる。しかし、次第に現す昆虫人間の正体など、所々にSFとしての面白さや作家性を出すあたりは流石。

全体としては、メインの人物を登場させて、その人物同士をぶつからせて、葛藤を生み出す、という王道のつくりではない。そういう意味では、決してドラマ作り(ストーリー・構成づくり)が上手い作品ではない。しかし、全体として観れるし、散漫にならないのは、人間の愚かさなど作者が一貫して描きたい、いわば作品のゴールとなるテーマがしっかりあって、それに向かって、創発的なつくりなのではあるが、描いていっているからだろう。

それにしても、改めて大人になって見直すと、ドラえもんに描かれる人物のドラマはかなり、現実の矛盾を織り込んでる。のび太はダメな奴だがいいやつ。のび太に似た人物が、のび太が作り出した地球にも出てくる。その中でも、特に野比奈は象徴的で、いいことをしてるのに、むしろ、そういうやつだから認められない。こういう矛盾は、大人になればなるほど、現実の社会で目の当たりにする。だからこそ、のび太に人々は共感するのだろう。子どもの時は、なんてダメ人間なんだと思ったのび太が、大人になると、どこか愛着のわく応援したくなる人物により見えてくるのは自分だけだろうか。


【捕捉】
エモドランの言動に対するドラえもんの「そうだね」というのが何ともいい。この何気ない一言のセンスもさることながら、エモドランを立てつつ存在感を出す大山のぶ代さんの声優としてのうまさも感じる。