beachboss114

ブロードウェイのダニー・ローズのbeachboss114のレビュー・感想・評価

5.0
食堂での芸人仲間の雑談から始まって最後は雑談で締め括られる構成が巧いだけじゃなく、他ならぬその場所こそが噂話の結末の舞台だったという見事な仕掛けに脱帽。

そこにたどり着くクライマックスの移動撮影の何とも美しいことよ。何度見てもゾクゾクするわ。

この食堂(カーネギー・デリカテッセン)の看板って、実際は黄色と赤のケバケバしい配色のネオンなんだけど、モノクロならではの魔法で実に味わい深いトーンに仕上がっている(この映画を見てからロケ地探訪をしたんだけど、現物を見た時の失望感と言ったら、もう)。

主人公は、面倒見が良すぎるあまり、子飼いの芸人から裏切られてばかりの芸能マネジャー。

一連のスラップスティックな騒動の挙げ句、例によって利用されるだけされてお払い箱になるのだが、それでも「赦し、愛せ」という叔父さんの教えを守って、売れないポンコツ芸人たちの世話をし続ける。

たとえ不幸な出会いがきっかけでも、新たな絆が生まれることもある。先はどうなるか分からないが、人生にはハッピーエンドもバッドエンドもない。どんなことがあっても、ただ続いていくだけ。そんなアレンの人生哲学が如実に反映された佳作。

いくら尽くしても、陽の当たらない稼業で報われることのない日々。同業者たちから小バカにされていた冴えない男が、実は皆から愛されていて、馴染みの食堂のメニューの片隅に名を残すという名誉と伝説。「地味な奇跡」を描いた珠玉の短編小説のような味わいがジワジワくる。

さて、今や現実世界ではキャリアまで失いかねない事態に陥ったスケベ親父ウディ・アレンとメンヘラ女優ミア・ファローのドロ沼。この映画のように互いに赦し合える日が来るといいのにね。って親戚でも何でもないから知ったこっちゃないんだけど。
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