明石です

ブラックホーク・ダウンの明石ですのレビュー・感想・評価

ブラックホーク・ダウン(2001年製作の映画)
4.7
「弾が頭をかすめた瞬間、政治やくだらん話は吹っ飛んじまうさ」

ソマリアの内戦に介入した米軍が、避けられぬ死を覚悟し現地兵と戦った実話。誰もが”楽勝な任務”と踏み、食糧も水も、暗視ゴーグルも持たずに、余裕綽々と現地に向かったものの、一台のヘリコプター(ブラックホーク)が墜落したのをきっかけに、どこからともなく湧いてくる数千のソマリアの民兵たちに殺されていく話。戦闘を引き出すための前座のような序盤のシーンを除けば、ほぼ全編、2時間近くにわたって繰り広げられる市街地での血みどろの攻防劇に息が詰まる。

これは映画なのか、はたまたドキュメンタリーなのか。少なくとも「劇映画」というにはあまりにリアルに過ぎ、ドラマらしいドラマもなく(作中人物は誰1人成長しない。現実の出来事の多くがそうであるように、ただ目の前に迫ることに振り回される一方。だからドラマはない)、おまけに血も流れすぎる。でもそこがよい。リドリー·スコットは、ことさら残虐シーンを好んで描くわけではなく、まあそれが現実なんだから仕方ないよね、というドライな感性で作品づくりに臨んでいるのが画面越しに感じられて、ドキュメンタリーでも劇映画でも(何なら小説でも)、リアルであればあるほど好きな私としては大ハマりな1作でした。

「仲間を見殺しにはしない」というアメリカ兵士共通の理念が何より足を引っ張るという皮肉な現実に心を奪われた。1人が倒れたら、その死傷者(たとえ死体だったとしても)を回収するのに最低2人は必要。もし仮にヘリが落ちたとなれば、、というのは、理屈としてはわかってても、その死傷者を回収しなければならないがために、戦闘の主導権を相手に引き渡し、さらに多くの死傷者が出るのを覚悟で皆で死地に向かわければならないとは、まさしくジレンマだなあと。突撃していく兵隊も、それを指揮する上官も、誰も悪くないのにまるで蟻のように人が死んでいく。その意味では、死体がいくら転がっていようが適当に放っておける(ちゃんとした言葉でいうなら、味方の死体を踏み越えていける)「未開の民」の方が有利でさえある。どれだけ武器や装備、兵士の練度でまさっていても、「戦争」に勝てるわけではないという事実をまざまざと教えられる。ベトナム戦争しかりイラク戦争しかり、なぜこんなにも国力に差があるのに、アメリカは戦争に勝てないのか、という問いの答えの一端を見た気がする。単純に戦力の差では測れない戦争の真実。

作品の設定はもちろん、ソマリアの街並みや細かなカット(とくに序盤のメガホン持った扇動者のシーンとか)が、私の大好きなゲーム「バイオハザード5」にそっくりで驚いた。序盤から、なんか似てない?とは思っていたけど、こんな赤裸々なほどにそっくりだと、もはやリスペクトを超えた執念のようなものを感じられてより好きになった(真似する方もされる方も)。

長年気になってはいたけど観る機会に恵まれなかったこの作品。腰を据えて観れてよかったなあとしみじみ思う。以下、リドリースコットが本作についてのインタビューで語った言葉が大変印象深いので引用します。

「戦う者は映画の作り手にとって、常に興味深い対象なんだ。それはとても良いストーリーが発生する可能性を秘めているからね。観客を2時間ないしは3時間、経験したことのない世界に放り込んで楽しませる。それが映画監督の望みであり、そのための極限状態を作れば、観客は興味を抱いてくれるはずだから。常に面白いストーリーを探しているフィルムメーカーとして、戦いという分野は見逃せないんだ」

—好きな台詞
「水道のない国で育ったが俺らは馬鹿じゃない」
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