LalaーMukuーMerry

ブラックホーク・ダウンのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

ブラックホーク・ダウン(2001年製作の映画)
4.5
アメリカ軍には、陸・海・空軍と海兵隊(と沿岸警備隊)がある。一方で米軍にはこれらを一体とし、別の観点から再編成した統合軍というものもある。世界を地域別にカバーした6つの統合軍と、機能別に分けた5つの統合軍だ。機能別の統合軍とは、特殊作戦軍、戦略軍(核兵器)、輸送軍、サイバー軍、宇宙軍。
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その中の統合特殊作戦軍はその名の通り、陸・海・空・海兵隊の特殊作戦軍を統合したもの。そして陸・海・空・海兵隊それぞれの特殊作戦軍には通称がついた有名な部隊がある。陸軍にはグリーンベレー、レンジャー、デルタ・フォース、海軍にはNAVY SEALs、空軍にはSOW、海兵隊にはフォース・リーコンなど。そして特殊部隊を描いた実話ベースの映画には記憶に残る名作が多い「ローン・サバイバー」「アメリカン・スナイパー」「ゼロ・ダークサーティ」など。この作品も間違いなくその一つ。
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作品には、レンジャー部隊、デルタフォース、第160特殊作戦航空連隊といった特殊部隊が出てきて、それぞれ役割分担して作戦が遂行されるので、その違いを分かって見るとグッと興味深く感じることでしょう。もちろん分かってなくても、ハイテク装備を駆使した短期決戦の緊迫した作戦計画にグッと惹きこまれ、不測の事態から生じたその後の凄まじい市街地銃撃戦には手に汗握り通しの面白さがある。
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そして、いろんなことを考えずにはいられない。なんで人間はこんなにも殺し合いをするんだ? 食料もない貧しい国の武装勢力がなんでこんなに信じられない程大量の武器を持っているんだ?(どこの死の商人が武器を売りつけているのだろう? RPGロケット弾は旧ソ連製の兵器だ)。
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答えのわからない疑問がつぎつぎと浮かぶ中で、一つだけ確かに共感できることがある。

「俺たちは仲間のために戦う、それだけだ」

1回目は激しい戦闘シーンやいろいろと湧く疑問のせいで、このラストのセリフにあまり共感しなかったのですが、特殊部隊というものを調べてみて、彼らがどういう訓練を受けてこの地(ソマリア)に来たかを想像しながら見た2回目では、その言葉をしっかり受け止めることができました。
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テロリスト幹部の捕獲という当初の目的自体は達成したわけだから、無駄な銃撃戦はしなくても良かったという見方もできる。けれど仲間を置きざりにはできないという思いが全ての兵士、司令官に共通の当然の思いだったということ、特殊部隊精鋭兵士たちの精神レベルの高さにうたれました。(かといって敵をあんなにも簡単に殺せるようになるのかという思いも心の隅には浮かぶのですが、あの状況ではあれしかないとも・・・)
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私の調査結果(ちょっと長めなので適当に読み飛ばしてね)
●(その1)精鋭たちはこうして養成される(陸軍グリーン・ベレーの例)
0.志願資格:必須の資格を有し、陸軍テスト成績が一定レベル以上の者
1.特殊選抜(約1か月) 
  基礎体力、サバイバル能力、協調性を見て篩にかける
2.合格者に特殊訓練(Qコース) 
  以後10~20名が1チームとなって苦楽を共にする
  言語習得(5~6か月) 世界4地域の言語から選択して習得
3.4科目の個人技能訓練(3か月)
  兵器、工兵、医療、通信の技能訓練を一通り受ける 
4.専門課程訓練 
  上記4科目に「将校」を加えた5科目から1つを選択(4~12か月)
 ・将校:作戦計画、兵站、ゲリラ戦
 ・兵器:あらゆる武器の取扱い方、分解組み立て、手製の銃・弾薬作り
 ・工兵:爆薬の扱い、機雷、不発弾処理、手製爆弾の作り方…
 ・医療:応急処置法、抜糸、皮膚移植、簡易手術、手足の切断…
 ・通信:モールス信号、通信衛星の使用法、暗号作成(乱数表)、秘密保全、最適通信場所の選び方…
5.総合演習(通称Robin Sage) 大規模野外演習
 敵地侵入、現地勢力との接触・交渉・協調関係の構築、現地への軍事教育訓練の実施、敵地脱出
6.卒業
 卒業と同時に配属部隊決定、その部隊のグリーンベレー帽が支給される

グリーンベレーは最小単位(小隊)が12名。その構成は訓練プログラムと見事にマッチしている。リーダー・サブリーダー各1名、作戦下士官・副官各1名、兵器専門家2名、工兵専門家2名、通信専門家2名、医療専門家(衛生兵)2名
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●(その2)登場する特殊部隊の役割の違い
・デルタフォース:
テロリストへの攻撃や首謀者の暗殺(ピンポイントな作戦遂行)
最近まで存在自体が秘密の部隊だった。陸軍の特殊部隊と記されることが多いが統合特殊作戦軍の直属部隊のようだ。4人単位で行動する。

・第75レンジャー連隊(陸軍):
他の特殊部隊の作戦行動の支援(デルタフォースが突入する施設や周辺地域の安全確保)や、時には市街地、空港など大規模施設の空挺・強襲などを行う。
レンジャーは通常戦闘と特殊作戦の両方を遂行できる3個大隊規模の精鋭部隊。18時間以内に世界中に展開できる緊急即応(QRF)の能力をもつ。レンジャー全体が特殊部隊というわけではなく、特殊作戦を行うレンジャーだけを特殊部隊に含める。レンジャーで経験を積んでグリーンベレーに入隊するケースが多い。

・第160特殊作戦航空連隊(陸軍、通称ナイト・ストーカーズ):
ヘリコプターを用いての輸送・回収・救出を行い、夜間飛行の能力が特に高い。

・グリーンベレー(陸軍、映画には出てこなかったが)
対ゲリラ、非正規戦の遂行にあたる特殊部隊。世界中の紛争地域に常駐して友好国の軍隊に対してゲリラ戦の戦闘指導、現地民への医療活動、現地の人々の人心獲得などにあたる。アフガニスタン(対タリバン)作戦以降、現地の慣習に合わせて女性だけの特殊部隊CSTもできた。