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サイコのMOCOのレビュー・感想・評価

サイコ(1998年製作の映画)
4.0
「母さんは別に凶暴な怪物じゃない、時々おかしくなるだけだ。君もなるだろ?」
「ええ、でも一度だけで沢山」
「もう部屋へ?」
「疲れたし、明朝フェニックスまでの長旅だから・・・」
「本当に?」
「手遅れになる前にあっちではまった罠から抜け出すわ」

 1995年のニコール・キッドマンの「誘う女 」
 1997年の ロビン・ウィリアムズと マット・デイモンの「グッド・ウィル・ハンティング」と評価を受けたガス・ヴァン・サント監督はプロデューサーとの次回作の打ち合わせリストにリメイクの企画を見つけ「どうせリメイクするなら『サイコ』を・・・」と自らヒッチコックの『サイコ』を候補に挙げたそうです。
『設定は現代、今の役者を使って台詞もショットガンも変えないカラー作品』がリメイクの条件だったようです。
 前年度の『北北西に進路をとれ』でテクニカラーを採用したヒッチコックが鮮血が刺激過ぎるとあえてモノクロを選択した『サイコ』なのですが、時が流れたのですね。

 
 という訳で現代・・・1998年12月11日(金曜日)午後2時40分アリゾナ州フェニックス・・・。

 マリオン(アン・ヘッシュ)はお得意様が18歳の娘の結婚祝いに購入した家屋の代金40万ドルの現金を持ち逃げして恋人サムのいる町へ車で向かうのですが、激しい雨に疲れ青年ノーマン(ヴィンス・ヴォーン)が経営するモーテル「ベイツ」に宿泊目的で立ち寄ります。
「ロサンゼルスから来た」と聞いたノーマンは貸そうと思っていた3号室から急遽変更して1号室の鍵を渡します。

 事務所の隣の1号室のシャワールームには除き穴が仕掛けられノーマンは・・・。

 マリオンはその夜、隣の管理事務所でノーマンが用意してくれた軽い食事をとりながら、ノーマンと交わした会話から自らの過ちに気がつき、翌朝にはフェニックスへ引き返すことにします。
 マリオンはその後、シャワールームで突如刃物を持った女性に襲われ絶命してしまいます。
 母親の犯行に気づいたノーマンは浴室を清掃し、多額の現金には気がつくこともなくマリオンの所持品と遺体を彼女の車のトランクに押し込み、敷地内の沼に沈めます。

 週が明けマリオンの犯行を聞かされたマリオンの妹ライラ(ジュリアン・ムーア)はサムを訪ね強い口調で姉の行方を尋ねます。その様子を見守っていた不動産会社の社長に雇われた探偵アーボガストは二人の会話からマリオンの単独犯行と決め正体を明かし、行方のわからないマリオンの合同捜索が始まります。

 聞き込みを中心にマリオンの足取りを調査したアーボガストは「モーテル「ベイツ」のオーナー、ノーマンが母親に会わせてくれなかったのでもう一度「ベイツ」に行く、一時間後にはそちらに行く」という電話を最後に行方不明になってしまいます。

 ベイツのオーナーを疑うライラとサムは夫婦を装いモーテル「ベイツ」に宿泊し、サムがノーマンを引き付ける間にライラがノーマンの母親に会いに母屋いくのですが・・・。

 おそらく一番撮りたかったであろうシャワールームのシーンはヒッチコックが撮りたかった上からのショットが組み込まれ長尺になっています。崩れ落ちるマリオンとおびただしい鮮血はヒッチコック版より迫力があります。
 会話中のノーマンが不要な一言であっという間にキレそうな一面を持っていそうな雰囲気を匂わせるのは、ヴィンス・ヴォーンの方が上手く感じます。

 反面、マリオンがパトカーの警察官につけ回されるシーンでの不思議な感情移入をこの映画では感じることはできませんでした。
 またヒッチコック版のカメラワークの凄さが出ていたライラが母屋への坂を登る手持ちカメラのシーンは固定カメラに変更されていました。

 シャワールームの覗きシーンには自慰行為が追加されたために、過去にノーマンが覗いた女性は全て自慰行為があって、母親の「ヤキモチ」から次々と殺されているのが普通・・・という気がして、辻褄が会わない気がしてしまいました。

「ヒッチコック版より迫力があります」・・・としたシャワーシーンはヒッチコック版のイメージが定着しているために、ヒッチコック版の方がサイコのイメージとして勝ってしまいます。


 今で言うなら「スターウォーズ エピソード4」や「アバター」や「ターミネーター」をその台本を使って同じようなセットでリメイクする、ある意味ドン・キ・ホーテな映画はヒッチコック版を観ている私にはやや物足りなさを感じたのですが、ガス・ヴァン・サント版はキャストの技量の高さを感じました。
 サイコを観たことがなくて「今さら旧作のモノクロなんて観たくもない」とサイコを敬遠する人には、良い作品だと思うのですが、ヒッチコックはあえてモノクロで撮っていることを忘れてはなりません。
 
 私は同一原作を新しい脚本で起こす映画はリメイクと言うのは「おかしい」と思っているので、これこそまさに「リメイク」。監督が狙っていたように「このシーンは少し違うぞ」とか「こんなシーンあったっけ」て気にしながら観て後からヒッチコック版も観てしまいました。
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