アニマル泉

男の敵のアニマル泉のレビュー・感想・評価

男の敵(1935年製作の映画)
5.0
ボグダノビッチによるフォードのインタビューによれば、西部劇に飽きていて本作を提案したところ、RKOのジョー・ケネディ社長がアイルランド出身だったので製作許可が下りたらしい。しかし撮影中にRKOが売却されてしまい、低予算の撮影で苦労したという。
ダブリンの一晩の物語だ。霧が濃く、光源が強調されて影が大胆だ。低予算のセット撮影を誤魔化す苦渋の策だったのかもしれない。冒頭から風が強い。フォードは「風の作家」だ。ジッポ(ヴィクター・マクラグレン)がフランキー(ウォーレス・フォード)の指名手配のポスターを破り捨てるが、そのポスターが強風であちこちに舞い、足に絡みつく。
本作は「高さ」の映画だ。フランキーが撃たれて転落する場面、爪で窓枠をひっかきながら落ちていく俯瞰ショットが素晴らしい。フォードによればこのショットの引っ掻く音にこだわったらしい。ジポが捕まるアイルランド独立地下組織のアジトは階段下、ジポが逃げ込むケイティ(マーゴット・グレアム)の部屋は階段上だ。ジポのアクションは転落になる。ラストカットは教会のイエスごしの俯瞰ショットだ。
ジポは人間を抱えてよく投げる。歩きながら酒瓶を投げ捨て、ケイティを抱えて馬車に放り込む。このリズムがいい。いきなり殴り倒す。ガラスは石を投げて割る。やたら机をゴツゴツ叩く。
大金を手にしてフィッシュ&チップスを街の人々に驕る場面、「今日は俺の奢りだ」と叫んだ瞬間に店に大群がおしよせ、女がカウンターに登って踊り出す。このタイミングと過剰なパワーはフォードならではの至福だ。ジポは自暴自棄で大金を一晩で使い果たしてしまう、このくだりは黒澤明の「生きる」に影響を与えていると思う。
原題は「密告者」。密告、疑惑、裏切りが連鎖していく。ヴィクター・マクラグレンは愚かで純粋で野蛮な役どころが素晴らしい。暖炉の火はフォードの主題だが、安らぎを求めてジポがケイティのもとへ逃げ込み、暖炉の火で眠ってしまうとケイティに密告される。
本作はポン寄り、ポン引きが多いのが特徴だ。腕の中から店のネオンを撮り、入っていく動きでポン引きになるのが面白い。
部屋の正対フルショットがグリフィスやフォードらしいショットだ。ガラスごしのショットも上手い。
音楽はマックス・スタイナー。フォード作品のいつもより劇伴奏が多い。脚本はダドリー・ニコルズ。
フォードがオスカー監督賞を初めて獲った。主演男優、脚本、音楽と合わせて四冠を制した。
RKO 白黒スタンダード。
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