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Mのbluebeanのレビュー・感想・評価

M(1931年製作の映画)
3.5
トーキー初期の作品ですが、音楽がない分、作り込まれた構図の中で小さく動くもの(揺れる鍵など)や効果音に意識が向き、かなり集中して画面を見させられました。また、画面に写っている場所の外の音声をかぶせたりすることで、すごく不気味で不安な効果が出ていました。

殺人犯ひとりにフォーカスするのではなく、興奮して私刑に向かおうとする群集心理など、その周囲の人間の社会現象にも踏み込んでいるのが当時の作品としてはすごいのではないでしょうか。悪気なく子供と会話する男性が疑われるシーンを見て、事案になるのを恐れて近所の子供に声をかけることがなくなり、社会のつながりがなくなった現代に生きている身としてはかなりドキッとさせられました。

警察側とマフィア側の議論の様子を交互に見せるシーンはおしゃれでした。一階の店舗を長回しで見せて、そのままカメラが外から二階の窓の中に入っていくシーンなど、カメラワークもかっこいいです。

犯人はギョロッとした目で顔に味があり、すごく小物感があります。その犯人がマフィアの裁判で自分の精神の制御不能であることを力説するシーンは、意図的に観客の視点を犯人の側に持ってくる演出になっています。善悪や司法の問題にも踏み込んでいて、考えさせられる作品でした。ラストは子供をちゃんと見ておけというシンプルすぎるメッセージ(?)で締め括られるのにも、なんとも不思議な印象を受けました
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