ぺむぺる

プロムナイトのぺむぺるのレビュー・感想・評価

プロムナイト(1980年製作の映画)
2.0
晴れ舞台は人生最後の日。度を越した悪ふざけからひとりの少女を死に追いやってしまった4人の子どもたち。6年後、成長した彼らの通う高校でプロムが開かれる晩、奇怪な連続殺人が発生する。80年代スラッシャーブームを代表するヒット作。とのことだが、今見る価値は皆無に等しい。

神出鬼没の殺人鬼、プロム会場での惨劇…とくれば、年代的にも「ハロウィン」と「キャリー」の影響下にあるのは明白で、これらの恐怖を、取ってつけたようなサスペンスと青春ドラマで薄〜く薄く引き伸ばした感じ。見どころといえば、やはり当時流行っていた「サタデー・ナイト・フィーバー」的ダンスシーンくらいのもので(いや待て、これはホラー映画のはずだが)、どこを見てもオリジナリティの欠片もない。少しきつい言い方をしてしまえば、あの時代が生み出したトレンドの残りカスでできたような映画である。

しかし、90分の短尺とはいえ不思議と最後まで飽きることなく見られたのは、単純にネタ元が偉大というだけではあるまい。思うに本作には、反感を抱かせるようなところもひとつもないのだ。他作のヘタクソなサンプリングといったツッコミどころはあるにせよ、こちらが躍起になるような解釈違いはなく(思想がない)、破綻をきたすほどのストーリーもない。こうした映画にありがちのB級的な猥雑さもないため、変な胸焼けを起こす心配もない。まさに「毒にも薬にもならない映画」だが、このライトでフラットな視線には商売根性や作家性といった暑苦しさが微塵も感じられず、あたかも純朴な青年に接したときのようなささやかな好感を持ってしまった。

かように浅薄な作品ではあるが、サンプリングされたホラーあるあるはわりかしツボを押さえており、それをブームと同時代的に行っていたのが興味深い。過激な殺人見本市と化すスプラッター/スラッシャー映画からの脱却として〈軽さ〉を求めるというのは、ホラーのポストモダンたる「スクリーム」が90年代末にやろうとしたこととほぼ同じであり、殺人鬼が暗躍する学園ものという見た目までそっくりである。ホラー全般を〈批評〉してみせたはずの「スクリーム」が実は「プロムナイト」の二番煎じであった、という妄想は、まったくもって事実とは異なるのだが、なかなか捨てがたいものがある。

いずれにせよ、ホラー映画史、とりわけスラッシャーの系譜に興味がある人以外には用のない作品だろう。
ぺむぺる

ぺむぺる