エソラゴト

ONCE ダブリンの街角でのエソラゴトのレビュー・感想・評価

ONCE ダブリンの街角で(2007年製作の映画)
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序盤、ある楽器店でセッションを交わす2人。言葉ではなく音楽を奏でる事でお互いの心を通い合わす描写が素晴らしい。ミュージシャンが本業の2人だからこそ様になるし画にもなるそのシーンでこちらの心も鷲掴み。

また中盤、スタジオでのデモ・テープ製作中にエンジニアの提案により「カーテスト」が行われる場面。スタジオの大型スピーカーではなく車のカーステレオで視聴し音を確かめるその作業。

確かに我々が音楽を耳にするのは何気ない日常生活の部屋や車内と云った狭い空間だったりする。かく言う自分も通勤で爆音を響かせながら毎日車を走らせているが、天候や流れ行く風景が重なり合って同じ音楽も聴こえ方が毎回違うようにも思えてくるから不思議。

またこの作業は何時間ものカンヅメ状態から外に出て新鮮な空気を吸う気晴らしも一つの目的のようにも思えたが、車内でのバンドメンバー達の清々しい笑顔や行き着いた先の浜辺で戯れる姿も何だか微笑ましかった。

2人の何とも微妙な関係性は見ているこちらとしてはもどかしさや歯痒さを感じざるを得なかったが、音楽を通して過去から脱却し再生を誓う2人の姿には自然と応援したくなったし、勇気や希望も貰えた。

自身もミュージシャンであったジョン・カーニー監督は今作以降も音楽に対する愛情こもった作品で人々を魅了している。どの作品も元ミュージシャンからなのか音楽を作り奏でる側を描いているのが特長的。次回は聴く側=我々の視点の作品を是非描いて欲しいし観てみたいと強く感じた。