くりふ

じゃじゃ馬馴らしのくりふのレビュー・感想・評価

じゃじゃ馬馴らし(1929年製作の映画)
3.0
【フェアバンクス家の微妙な戦争】

シェイクスピア「じゃじゃ馬ならし」は何度も映画化されていますが、これは1929年、まだトーキー映画始まりの頃、当時の大スタア、ダグラス・フェアバンクスとメアリー・ピックフォード夫妻の共演作。

この夫婦共演は珍しいようですから、当時は話題になったかも?とは思わせますが、夫婦バトルを期待すると、かなりの腰砕けです。

監督のサム・テイラーは、ロイド喜劇をよく撮っていた人なんですね。ドタバタ喜劇のノリで、無声時代の動きをまんま持ち込んでいます。原作は言葉のドタバタ喜劇でもあるし、親和性悪くないとは思います。第一幕、ミノーラ家での騒動まではけっこう面白かったのですよ。

ミノーラの屋敷、玄関ホール中央にでかい階段があって、それが、2階の「じゃじゃ馬部屋」だけに通じているという、ホラーな構造(笑)。で、その部屋に入った者に待つのはすべて階段落ち!という爆笑展開。皆さん体張っててお見事。二人重ねで本気落ちしたりしますからね。

でもその後、結婚騒動に突入してからは、原作に囚われたものか、原作未消化の消化試合みたいな不発感で、あっけなく終わりました。

スタア夫妻で面白いのは、メアリーさんの方ですね。フェアバンクスは、ガハハ笑いの豪快だけって気がしちゃいました。

アメリカの恋人、とまで言われたメアリーさんが相応しいのは、一見清純派のビアンカの筈で、当時の舞台版「じゃじゃ馬ならし」でも、実際M・ピックフォードのようなビアンカ、という形容があったそう。

しかし、夫婦共演を売りにするならやはり、じゃじゃ馬の方だろうし、狂騒の20年代、フラッパーも闊歩する世相からもそうなのでしょう。

というわけで顰め面、いきなり鞭を持ってカタリーナとして登場です。この鞭もそれまでは、じゃじゃ馬をならす象徴として主に、夫ペトルーキオが持つのが定番だったそうですが、本作ではまず、二人が互いに、なぜ鞭持ってんじゃ!と睨み合うことから始まります。

そして結婚後もカタリーナは、夫への異議申し立てをずっと続ける。当時は珍しかったそうで、「じゃじゃ馬なら史(笑)」の中での本作は、けっこう先駆的な部分を持った作品のようです。

メアリーさん、じゃじゃ馬(というよりヒステリー)なのに表情など、可愛らしさをやわらかく担保しているのは、やっぱりアメリカの恋人、のなせる業だと思いました。そんな彼女の魅力に絞って楽しむなら、よい作品ではと思います。

『キス・ミー・ケイト』がとても面白かったので、シェイクスピアの「じゃじゃ馬なら史」を少しかじってみたのですが、長い歴史の中での変遷が色々あって、やっぱり奥深いですねえ…。

<2013.4.11記>
くりふ

くりふ