タキ

クイズ・ショウのタキのネタバレレビュー・内容・結末

クイズ・ショウ(1994年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

テレビ業界が隆盛を極めた頃の1950年代後半のアメリカ。国民的人気クイズ番組「21」でおこった八百長事件を元に作られたロバート・レッドフォード監督作品。
テレビ業界の八百長問題と同時並行して他者から受ける人種差別と自分自身の中の人種差別も複雑に絡んでいてかなり見応えがあった。
1950年代の話なのに現代でもまったく古臭さを感じないあたりNBC上層部やスポンサーにはお咎めがなかったラストが一層重くのしかかってくる。
父親はピュリッツァー賞を受賞したことのある詩人で自身は大学教授、生まれも育ちもよい金髪碧眼でハンサムなチャールズ・ヴァン・ドーレンとギャンブル好きが高じて金に困っており見かけもパッとしないユダヤ人バービー・ステンペル、同じくユダヤ人でハーバード大の法科を首席で卒業したと周囲をマウンティングしながらバリバリ仕事をこなす立法管理委員会の捜査官グッドウィン。ステンペルは「21」ではユダヤ人は必ず白人に負けるようになっていると敵対心をむき出しにし、かたやヴァン・ドーレンと付き合っていくうちに親しみを覚えはじめなんとか委員会に召喚されずに済むようにとの温情の気持ちを抱くふたりのユダヤ人がいて、ヴァン・ドーレンに対する想いの違いを描くやり方は面白い。さらに冷水ブッかける勢いのグッドウィンの妻の発言が物語を1ランクも2ランクも上げていてただのスキャンダラスなストーリーに止まらない深みをもたせていた。戸田奈津子訳では「卑屈なユダヤ人丸出し」というセリフ、原文ままの訳だと「あなたはユダヤ人のアンクルトムみたいだ」というセリフになるのだが、これはアンクルトムを蔑称として使っていて「卑屈で白人に従順なユダヤ人」という意味合いになる。夫をヴァン・ドーレンより10倍頭がいいし人間性も10倍いいと持ち上げたあと強烈にdisりというこのセリフはグッドウィンの内なるコンプレックスを否が応にも刺激し同時に「ハムレットのいないハムレット」だと言うような一般視聴者の声の役割も果たし一発ノックアウト級のハードパンチだった。しかし私たちは丁寧に描かれてきた知識階級の矜持を大切に持って生きている浮世離れした様子のヴァン・ドーレン家の実直さを見てしまっていて、彼を庇いだてする気持ちもわかる。そしてヴァン・ドーレンを召喚してしまうと肝心のテレビ業界の上層部にまで及ぶ不正の部分があやふやになってしまう危険性があるのも十分にわかってしまっている。ステンペルの召喚の後父母が見守る中、ヴァン・ドーレンが不正の告白をすることになり、それを勇気ある発言と賞賛する声が委員会からあがる。以前の召喚でステンペルはコテンパンにやられていたのにこの差は何事か。これで終わったらモヤモヤしか残らないのだが、「私もNY出身だが君とは生まれが違う。声明文の意義は認めるが感想は違う。君のような知性豊かな人間が単に真実を語っただけで賛辞を?」と委員のひとりから発言があり、満場の拍手喝采。この時の3人それぞれのとまどいの表情を是非見て欲しい。そのあとこれほどのことをしてもテレビの仕事も大学教授の職も追われないと思っていたヴァン・ドーレン親子の世に揉まれたことのなかった顔がすうっと冷えていく様子もよかった。「運がよかった」とはどういうことか身に染みてわかった瞬間だと思う。あと忘れられないのがポーカーのシーンのやりとり。おしゃれで緊迫感もあってサイコーだった。

面白かった〜とぼーっとエンドクレジット見ていてチャールズ・ヴァン・ドーレン役の名前…レイフ・ファインズ!ヴォルデモートの!Mの!髪の毛フサフサ!(おい)
かつてはこんなナイーブな顔をした美しい青年だったのか。本気で気づいてなかった…。
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