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クイズ・ショウのGreenTのレビュー・感想・評価

クイズ・ショウ(1994年製作の映画)
3.0
不正がはびこる世の中なのは、私たち一人一人のモラルが低いせいなんだな、と思わされる映画です。

あらすじは、人気クイズ番組『トゥエンティ・ワン』は全て八百長だったことを立法管理小委員会の捜査官が暴き、出演者たちが立法委員会の聴問会でそれを証言する。しかし、番組のプロデューサーたちは「自分たちの責任で八百長をした」と罪を被り、視聴率のために八百長を指示したネットワークの重役とスポンサーの重役は、「知らなかった」の一言で罪を逃れる。番組プロデューサーたちはクビになるが、数年後に新しい番組を当ててミリオネア―になる。しかし、聴聞会で証言した出演者たちは信用を失い、職を失う。

という話なのですが、これは1950年代に本当に起こったスキャンダルで、監督のロバート・レッドフォードは、当時演劇学校の生徒で「トゥエンティ・ワンの出演者たちは、とても魅力的で、演劇を学んでいた僕には、みんな演じているように見えた。魅力的過ぎるんだ。でも同時に、一度もヤラセだなんて思わなかった。まだテレビがウソをついているなんて思わない時代だったんだ。でも、商業主義的なメンタリティはすでにあったし、今考えてみるとモラルがすごく低かったね・・・・。これが最初のスキャンダルだと思う。このあとズルズルと出て来てどんどん感覚がマヒしてしまい、みんな何を信じていいのかわからなくなった」とインタビューで語っていたそうです。

私は最後のエンドロールでクイズ番組の視聴者たちが番組を楽しんで笑っている様子がとても醜く描かれていたので、「八百長をやったのは、視聴者が欲しいものを与えただけ」というのがお話の教訓なのかな?と思った。

マーティン・スコセッシ監督が、番組スポンサーの製薬会社の社長役で出てて「あれ?これスコセッシだよね?」って思ったんですけど、この人のセリフに「視聴者は、物知りの人たちのインテリジェンスを見たいわけじゃない。掛け金が動くのにスリルを感じるだけなんだ」というのがあって、これを聞いて考えさせられた。

個人的には、今、アメリカでトランプが、あんだけ公共メディアでバカげたことを言っているのに支持している人がいるっていうのが驚きなので、「汚いことをしても罪悪感を感じない、モラルが低い人が生き残る世界なんだよな」ってことが1950年代から暴かれ続けてきているのに、世の中は一向に変わていないことに愕然とする思いでした。

さらに、内容を良く考えてみると、クイズ番組で連勝を続けていたハービー・ステンペル(ジョン・タトゥーロ)って人が、ユダヤ人で容姿端麗でないため、ヤラセで降板させられ、チャールズ・ヴァン・ドーレン(レイフ・ファインズ)という、「いかにもな白人」が新しいチャンピオンとして取って代わると人気が急上昇するという、「白人信仰」はあったんだなあというのも興味深かったです。

iMDb でもこのことをは取り上げられていて、ロバート・レッドフォードは「ユダヤ人がWASP カルチャーの欺瞞を暴く(捜査官のグッドマンもユダヤ人)」というテーマを、他の監督作品(『普通の人々』)でもやっているって書いてあった。

WASPなんて最近使わなくなったけど、白人富裕層って元々この人たちなんだよね。この人たちがアメリカの支配層だったんだけど、この映画では「特権階級」のチャールズ・ヴァン・ドーレンがクイズ番組の八百長をしたのは、「すべてにおいて優れていなければならない」という白人富裕層のプレッシャーのせいだって書いてあった。

捜査官のグッドウィンを懐柔しようとしてチャールズ・ヴァン・ドーレンが自分のお父さんのバースディ・パーティにグッドウィンを招待するシーンがあるんだけど、お父さんは有名な詩人で、親戚はみんな「TVはんて見たことない(教養の低い人が見るものだから)」みたいなシーンがある。クイズ番組の賞金は、200万円とか?当時ではすごい高額だったんだろうけど、親戚たちは全然ビックリしない、みたいな。要するに、お父さんの名声に比べたら、クイズ番組なんて俗っぽいところでちやほやされても、チャールズは誰にも褒められない。

こういう「WASP文化」が、ズルしたり、ウソをついたりしてでも成功すれば良い、お金が稼げればよい、というアメリカの「低モラル」な文化を生み出した、ということらしいのだけど、確かに、トランプ大統領もこれに当てはまるなあと思った。失敗を認められない。嘘でも自分は成功しているって言い続ける。

この映画ではWASPのユダヤ人差別が描かれているけど、アメリカの人種差別って、このWASPたちが、「自分たちってなんてすごいんだろう」って思ってて、他の人種に負けたらカッコ悪いから、なんとか自分たちの優位を守るために他の人種の人たちに攻撃的になるのかなあと思った。
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