むっしゅたいやき

ベルリン・アレクサンダー広場のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

3.8
大都市と個性。
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー。
舞台は第一次大戦後、極度のインフレに苦しむドイツ帝国の首都・ベルリン。
元受刑者フランツ・ビーバーコップの、約一年間に渡る愛憎劇を記した作品である。

本作は全13話の物語+二時間弱のエピローグから成る、長大な作品である。
本編13話では出所後のフランツの辿る実生活、「真面目に生きる」と云う決意、其の崩壊と彼の行く末が丁寧に描写される。
ファスビンダーらしい冗長なラブロマンス部も多く在るが、コローを想起させる空気感の有るショットは健在で、物語を離れ、芸術作品としての鑑賞にも耐えれれようかと思われる。

本作は全898分もの巨編である為、鑑賞に於いて主題やテーマを絞り込む事が非常に困難な作品である。
と、云うより、切り取り方に依って如何様にも受け取れる、と言うべきか─。
フランツとラインホルトに由る、幾分ホモセクシャリティな愛憎劇とも取れるし、レールを外れてしまった者に対する不条理劇だとも捉えられる。
「矛盾した愛憎」や、「罪科と良心」、「社会の過酷さ」等、様々なテーマを含む作品であるが、私個人としては冒頭に掲げた「大都市の中でのアイデンティティの喪失」を表した作品の様に感じられた。

エピローグ部に就いては、贅言を要しない。
ファスビンダー自らが云う、「とり立てて言うべき事は無い」その物である。
都市の中、己を知悉してしまった者は安寧を得るが、反対に没個性的ともなり人々に埋もれて行く。
ビーバーコップは、善かれ悪しかれその強烈な個性を以て出所後の一年間を生きた。
以降の彼の生活は容易に想像出来ようが、最早これ程の浮沈、輝きは見られないであろう。
都市は、人を呑み込む。
様々な出会い、別れ、競争や刺激を以て人々の個性を毀ち穿ち、均して行く。
都市生活の持つ、そんな侘びしく、味気無い一面を痛感させる作品である。
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