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スパイのHKのレビュー・感想・評価

スパイ(1965年製作の映画)
3.8
夏堀正元原作の小説を『武器なき斗い』『松川事件』などの山本薩男監督が映画化。キャストは田宮二郎、小川眞由美、中谷一郎などなど

中央新聞社の社会部の記者として働く男がある事件について取材をしていた。李政権の反対デモに参加した経験のある在日朝鮮人の囚人が脱走したのだが、偽の警部に捕まってそのまま行方不明になったらしい。事件の真相追求のため取材を重ねていくうちに彼は嘗ての旧友と出会うのだが…

山本薩男監督特集で鑑賞。こちらも悪くなく面白かったのですが、傷だらけの山河のインパクトがでかすぎてちょっと霞んでしまった。それでも社会派エンタメとしてとても面白かった。

まだこの当時は韓国よりも北朝鮮の方が夢の国としてのイメージが残っていた時で、朴独裁政権による格差拡大に対する批判があった時代だからこそできたような作品ですね。

反政権デモを行った在日朝鮮人たちを何かのスパイにすることで日本の巨悪を倒そうとするのが中谷一郎さん演じる井村なのですが、彼らが一体どういう狙いでどういう謀略活動をしているのか分からないのが残念でしたね。

でもまあ、活動理由とかでセンセーショナルに真実を突き付けるより、スパイ組織に人生を踊らされる群像劇として見てみればある程度面白かったかな。

舞台設定は結構壮大なものになっているが、基本的な説話構造としては主に田宮二郎と中谷一郎の二人の友情とかが、スパイ活動によって踏みにじられる所に焦点があてられる。

緊迫感あるシーンは昨今のドラマでやるような大々的に誇張した表現をすることなく淡々と物事が進んでいく所がやはりこの時代の作劇の良い所。あまり飾ることなく破滅に行く説話は、1940年代のノワール映画を思わせる。山本薩男監督もそこを意識して作ったんじゃないかなと思いますよ。

やはり新聞記者が主役の映画だとビリーワイルダーの『地獄の英雄』とか思い起こしますね。ああいうタイプの説話構造で最終的に田宮二郎演じる新聞記者をヒロイックに描くのが面白みというか。

劇中における拷問シーンとかは典型的なんですが、やはり縛り付けた後に不協和音で精神錯乱を狙うというのはこの頃から映像表現であったのだと驚くばかりですね。

東野英治郎演じる在日朝鮮人の男が良い味を出していましたね。最後までどこか人情味があって良かったですね。

田宮二郎はやはりダンディでかっこいい。中谷一郎と言えば喜八映画でもよく出ていて明るい役とかが多い印象でしたけどこの映画だとすごい闇を抱えている人の演技をやっていて素晴らしかったですね。二人の対照的な性格とかがとても良かったです。

いずれにしても見れて良かったと思います。山本薩男監督作品をもっと見てみたいですね。
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