リコ

血の婚礼のリコのレビュー・感想・評価

血の婚礼(1981年製作の映画)
4.3
カルロス・サウラのいわゆる「フラメンコ三部作」の一作目。
この後、「カルメン」「恋は魔術師」と続いていくが、三作全てにスペインの伝説的なフラメンコ舞踊家アントニオ・ガデスをフィーチャーしており、それらは映画と伝統舞踊のコラボレーションの稀有な記録とも言えるだろう。
この「血の婚礼」は、ガデス舞踊団の同名演目の稽古場風景を追ったセミドキュメンタリー風作品。
楽屋での支度から、基礎稽古、ドレスリハーサルへと流れるようにカメラにおさめられる中で、舞踊家たち、音楽家たちの芸術の粋が目の前で錬成されていく。

演目の「血の婚礼」はもちろんロルカの有名な戯曲を翻案したもの。
婚礼の夜に逃げ出した花嫁とその恋人の悲劇を、ガデスと舞踊団の花形であったクリスティーナ・オヨスが演じている。
出色は、序盤の2人による合舞(て言えば良いのか)。結ばれない恋人たちが互いを想いながら、空気を抱擁したり床にごろりと寝そべったりする振り付けは、素人目に見ても斬新かつ、耳が赤くなってきそうなほど官能的だ。
超人的な身体のさばき方、リズム感覚はもちろん、クローズアップで捉えられたそれぞれの表情に見いってしまう。特に、眉間のシワひとつでキャラクターの内面へ観る者を引き込むクリスティーナ・オヨスが素晴らしいの一言。白い婚礼衣装で舞う姿はさながら自ら羽をむしりながら苦しむ白鳥いった具合である。
(ところで、アントニオ・ガデスの筋ばった、どちらかといえば痩身の立ち姿は暗黒舞踏の土方巽を思い出させるのだがどうだろうか。)

唄と手拍子を鳴らす群衆が舞台奥から手前へと前進してくるのを、カメラが舞台下手で平行移動しながら捉えた躍動感あふれるワンショットもあれば、ひたすらサパテアードを鳴らす足元を追ったショットもあり、「フラメンコ」という上等の魚を前にして包丁をあちこちに刺しまくり映像として昇華させようとするサウラ監督の興奮が伝わってくるようだった。そのせいか、演目の序盤はやたらとカット割が多いように感じ、そこはもうちょいカメラ追いかけて~!と袖を噛みたくなる箇所もあったのは少し気になった。
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