Azuという名のブシェミ夫人

画家と庭師とカンパーニュのAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

画家と庭師とカンパーニュ(2007年製作の映画)
4.4
パリで成功している画家がモデルとの浮気を理由に妻から離婚を迫られ、田舎に戻ってくる。
そこで庭師として現れたのは、小学校の頃イタズラを一緒にしていた旧友であった。

これを初めてレンタルした時のことを良く覚えている。
私は結構タイトル借り(またはジャケ借り)をする。
その時もふとタイトルが目に飛び込んできた。
画家と庭師とカンパーニュ・・・うん、イイ。
そして手に取って、好きな映画である『クリクリのいた夏』のジャン・ベッケル監督作品だと分かった時凄く嬉しかった。
狙った訳じゃない時のこういう出会い方は妙にスペシャルに思えるものだ。

ストーリーに大きな起伏は無い。
カンパーニュ(片田舎)での長閑な暮らし、お互いをキャンバス(画布)、ジャルダン(庭)と呼び合う男達の伸びやかな会話に、観ているこちらの心も安穏としてくる。
友情というのは不思議なもので、一緒に過ごした時間の長さには必ずとも比例しない。
彼らが共に過ごしたのは子供の頃のほんの僅かではあったけれど、定年を過ぎた今再会しても互いの空気はピタリとくるのである。
フランスらしいエスプリの効いた二人の会話にふふっと笑みがこぼれてしまう。

キャンバスは田舎に戻ってきて正解だったね。
都会の障害物に視界を阻まれて気づかぬ内に凝り固まってしまった心は、ジャルダンが造り上げた素朴なれど美しき庭によって解きほぐされていた。
庭というのは持ち主の心の様子が表れる場所だと思う。
心が荒んでいたら、美しい庭園造りなんて出来やしないだろう。
だから、逆に言えば庭を綺麗にすることは心も治すことになると思うんだ。
ジャルダンはキャンバスの心を整えに来ていたんだね。
キャンバスにとって他でもない最高の庭師。

静かに涙が出てしまう。
旧友に再会しに行くように、たまにこの映画を見返す。
きっとこれからも、何度も。