ヤクザの家に生まれ今は高校の体育教師をしている小林旭が、故郷仙台に戻り再び暴力の世界に巻き込まれる。モダニズムと暗く生々しい情念が混じり合う日活固有のやくざノワール。
野口博志の抑制の効いた端正な語り口が美しい。これはいい映画だ。渋い。
一応ヤクザものだが、アキラが商店街の住民や組員たちの前でヤクザ否定し組とも決別してから、あくまで個として決着をつけに行くのが如何にも日活スタイル、代紋を背負ってどうこうするということがない。この思想は本当に一貫している。野村孝の『昭和やくざ系図 長崎の顔』では、渡哲也が組長としての自分の誇りを取り戻しに行くんだと言って出入りに向かった。
平田大三郎が『さすらい』に続いていい役だ。似たような役柄だが随分改良されて、屈折と心根の良さがよく出ている。ちょっとしたことで道を踏み外したのだなと思わせる寂しさ弱さが、悪党ポーズの後ろから滲む。兄貴と呼んで、違う友達だとアキラに返された時に一瞬見せるあの寂しげな表情。
甘くならないシビアな結末が良い。苦い後味を残して、アキラのさすらいの旅は次の映画へと果てしなく続く。