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かたつもりのKHのレビュー・感想・評価

かたつもり(1997年製作の映画)
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アテネフランセ文化センターで鑑賞。
「かたつもり」「天、見たけ」「塵」3部作の同時上映。最初2作は実際のフィルムを映写機にかけ上映。
河瀬直美監督が実の養母を被写体に撮ったセルフドキュメンタリー形式。
終始おばあちゃんのシワの刻まれた顔がアップで映し出される。言葉では拒みながらも、嬉しそうにカメラの前に立つ。
桜の木を前に枝を切ろうとするシーン、コンクリートを打ち砕いて畑を開拓しようとするシーンなどクスッと笑える無邪気なシーンが続く。
握力が弱くなり水道を最後まで閉めれず水滴がポタポタと落ちている台所など、ふとした瞬間におばあちゃんの老化を感じる。
名シーンは、家の中から窓越しに畑作業をするおばあちゃんを愛おしそうに指でなぞり、そのまま外に出ておばあちゃんの目の前まで迫って頬を撫でる。衝撃に駆られた様に飛び出すシーンは、唐突に感じられる愛おしさと喜びが映像からひしひしと伝わってきた。
上映後のトークショーで監督は、当時はずっと反抗期で感謝の気持ちさえも素直に伝えられなかったらしい。そんな中でカメラを利用することでその気持ちが表現できたと言っていた。
そして最後に自分の身の回りのモノたちの名前を監督自身が1つずつ叫んでいく。
映像作品として残る拙ささえも、この世界を完成させていると思う。だから、この映画を観たあと自分も追体験した様な感覚になった。この作品がこの監督の鮮烈な原点だと思う。

また最後の作品「塵」では、おばあちゃんが老衰して死を迎えるシーンを映像に収めている。「かたつもり」では初めて映像を撮りながら個人的記録から成長して、客観的に捉えれる感覚を初めて身につけたとトークショーで言っていた。
もちろんこの作品では、おばあちゃんの死を悲しみながらも映画監督河瀬直美としてこの映画を完成させたのだと思う。
90代のおばあちゃんのよぼよぼのお腹や乳房までも映像に収める。
この作品は映画監督としての河瀬直美に感動するのは勿論だが、それ以上に恐ろしさを感じた。
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