カルダモン

ヨーロッパのカルダモンのレビュー・感想・評価

ヨーロッパ(1991年製作の映画)
4.3
撮り方がやたらとスタイリッシュでスクリーンプロセスのやり方がどうかしている、というウワサだけ耳にしていて、ずっと気になっていたラース・フォン・トリアーの初期作品。ウワサに違わぬ変態撮影に度肝を抜かされると共に、なんとも美しい映像はそれだけで心が踊る。

スクリーンプロセスは演者の後ろにスクリーンを置き、そこに映像を映しながら撮影する一種の特撮技法。古い映画などで車を運転している場面でよく使われているやつです。

この映画では随所にスクリーンプロセスが使われているのですが、演者がスクリーンの中に入ったり出たり、あるいは背景はモノクロなのに手前はカラーだったり、後ろは人物を大写しにしているのに手前は等身大だったり。ありとあらゆるアイデアが詰め込まれていて、ちょっと他では観たことがないような不思議な映像体験を味わいました。

舞台は1945年、第二次世界大戦終戦直後のドイツ。ドイツ系アメリカ人のケスラーは叔父のコネでドイツの鉄道会社に就職。
まだまだ不安定な情勢の中、鉄道は進む。
ある時ケスラーは乗客の女性と親しくなるが、彼女の正体はいわゆる〈ヴェアヴォルフ=人狼〉だった。揺れる鉄道とメガネ男の心の揺れが同期して。

時折、誰の声とも知れぬナレーションが突如聞こえたかと思うと、催眠術のような10カウントを始めて『10数えたらあなたはヨーロッパにいる』だのなんだの、どのように捉えて良いのかわからない表現も魅力的。

私はこの映画を見て、つくづく映画のライティングって素晴らしいものだなと感嘆しました。最近は自然光を美しく撮れるカメラ性能であったりCG処理されているせいか、照明の光が美しいと思う映画はあまり記憶にない(スピルバーグの『ウェストサイドストーリー』くらい)
コントラストがバキッとしたモノクロ画面と、浮かび上がる美しい鉄道、闇に光る目。蠢く人物。タルベーラ作品のように、闇の中で充満していく不穏な空気がたまらなかった。