茜雫

秒速5センチメートルの茜雫のレビュー・感想・評価

秒速5センチメートル(2007年製作の映画)
3.9
限定公開で映画館で観られるということで。
IMAXで体験してきました。

ぐわっと泣かせにくるわけじゃないし、最後まで全然幸せではないんだけれど、ひたひたと忍び寄ってくる孤独と悲哀に、呼吸さえ無意味に思えるような映画でした。

遠野貴樹という人物にのしかかる茫洋と広がる寂寞は人生のいつの地点にもあって。貴樹くんは大人になるまでずっと、うまく付き合えているようでその寂しさに飼い慣らされてしまっているようだなと。明里と一緒にいた時からその兆しはあったけれど、会えなくなった時からどんどん深くなっていて。けれどもあまりに美しい孤独だったからきっと苦しいとすら思えずに大人になってしまった。

常に現実から一歩引いたところに立ち、現実の向こうにある虚空と共に生きているような彼を思うと苦しい。
第3話、「秒速5センチメートル」の文字とともに主題歌が流れた途端、呼吸も、鼓動の音も、全てが邪魔に思えるような圧倒的な演出に気圧されました。これを素晴らしい音響で体感できてよかったと心から思う。

映画が終わってから、なんとなく喧騒が遠くなる感覚がわかる気がする。心の中にある空白が広がっていくような感じ。全てに彼女の面影を見て生きている遠野くんの虚しさは想像もできない。
踏切で振り返って電車の過ぎた後、ただそこに明里の欠片が何もなくて良かったと心から思った。


2022_21
茜雫

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