佳

ラスト サムライの佳のレビュー・感想・評価

ラスト サムライ(2003年製作の映画)
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真田広之を観るために鑑賞。
観てみて、
この映画は武士道を美しいものとして作られたのか、それとも武士道に問題意識を持って作られたのか。どっちかなと思った。

「勝元」ってどんな人だ?と引っ張っておいて、実は結構明るくて接しやすい人だったというのが良かった。勝元の家で日本人文化に慣れていくネイサンの様子はちょっと笑えるところもあって、そういうシーンは好きだった。にしてもネイサンの日本武術と日本語の習得スピードがすごい。

冒頭にネイサンが殺した男の妻と子供達が、ネイサンと食卓を囲むシーンが印象的だった。最初は子供達も違和感を持っていたが子供は徐々に懐いて、しかし妻は許せないというところ。最後の方で、妻が殺された夫の甲冑をネイサンに着せて出陣させるのは良かったが、そこで妻がネイサンに恋愛感情らしきものを見せるのはあまり好きではなかった。武士道を前面に出すなら、侍の妻としてその描写はなくても良いのかなと思った。

変わっていく時代の中で、これまでの侍文化にこだわる様子は、今の時代のおじさんたちとも少し被った。会社などで文化が新しくなっていく中、昭和の古き良きみたいなものも確かにあると思うし、それに固執している人もいる。文化や習慣とは、いいところもあるからある程度それが続くのだと思うが、時代は変わっていくので、文化も永遠ではなくて、変わりざるをえないという難しさは世界共通だと思った。
また、ネイサンの元上司が200人の軍勢で2000人の敵に向かわせたことを勝元が肯定するシーンも、古い人を感じた。ネイサンはその上司を「悪い上司」と言うのに対し、勝元の武士道的考え方では良いものとされる。ギリシャの戦争の話についても、多くの軍勢に向かっていった300人は全員討死したと言うセリフがあってから、勝元たちのクライマックスの突撃に入るが、その描写からも、結論少人数での特攻・玉砕が武士道における美である、とした物語だったと感じる。
日本文化の根本にある武士道がこういう考え方だから、神風が良しとされて、今はそんなことはないと言いつつもどこかで「全体のために一人の個人が無理をするのが良し」という風潮があるよう感じる。
これは侍の武士道の話だけでなく、今もある日本文化や、日本人の考え方の根本を描いたものだと感じた。

公開が2003年とかなり前であることと、海外から見た日本を描写した映画だからこのようになるのかなと思い、それ自体は悪いことではないし全体的に面白かった。ただ今の価値観で共感を呼ぶようなものではないし、それを目的としては作られていないなと思った。
この映画は武士道を美しいものとして作られたのか、それとも武士道に問題意識を持って作られたのか。
日本人の描写として確かにステレオタイプだけど、やりすぎとは思わなかったし、時代設定も昔だから合っているとは思う。でも合ってるからこそ今の日本人は共感しないのかなと思う。映画としてはもちろん良いけど、今の日本人は昔の日本人を受け入れない風潮にあると思うので。その点、この映画の内容と同様、同じ国民同士で新しい人と昔の人が対立して争うというのは今もまさにそうで、そういう意味ではこの映画における対立構造が的を射ていて面白いと思った。
佳