うめ

サイダーハウス・ルールのうめのレビュー・感想・評価

サイダーハウス・ルール(1999年製作の映画)
3.8
 アカデミー賞関連作、鑑賞その6。第72回アカデミー賞で助演男優賞と脚色賞を獲得した作品。監督はラッセ・ハルストレム。

 メイン州ニューイングランドの孤児院の中で育てられた青年ホーマー。父親同然であるラーチ医師のもとで医学を学び、出産を望まない女性たちの中絶手術を手伝ったり、年下の孤児たちの世話をしていた。ある日、中絶手術を受けにきた女性キャンディとその恋人ウォリーが車で孤児院にやって来る。ホーマーは外の世界への好奇心から車に乗せてもらうようにウィリーに頼み、孤児院を離れる。ホーマーはウィリーの家が経営するリンゴ園で、黒人の労働者たちと住み込みで働き始める。新しい仕事をこなし、戦争でウォリーがいない中、キャンディとも親しくなっていくのだが…。

 相変わらずラッセ・ハレストレムの作品は温かい。観ていると心が穏やかになる。それはやはり演出のおかげ。特に今回は人物描写がすごく丁寧だなと思った。凝ったことはしていないのだけれど、主要人物の行動や表情を感じ取れるように、しっかりと映す。一つ一つ漏らすことなく。だから人間関係を主なテーマに据えているハレストレムの作品にどっぷりとはまることができるのだ。嫌らしくなく、丁寧に、そして優しい目線で登場人物たちの行動を追っている。

 以上のような演出があるからこそ、家族や人のつながり、生と死という普遍的なテーマを違和感なく受け入れられるのだ。上記のようなテーマは悪い言い方をすれば、ありきたりなテーマで、誰もが共感を覚えやすいテーマでもある。描き方によってはとても陳腐なものになってしまうこのテーマを、ハルストレムは実にさらっと描き出す。今作はホーマーとラーチ医師という父子関係とホーマーの成長を描き出している。そのテーマ自体もそうなのだが、今作は特にラストが「ずるいなぁ…」と思わせる展開。そう思いながらも心に響いてしまうのは、やはりハレストレムだからなのだろう。

 その演出やテーマを引き立てるのが、レイチェル・ポートマンの音楽である。美しく優しい音楽は重要な場面で、人物たちにそっと寄り添い、時には彼らを大きく包み込んでくれているようだ。出産や中絶をする女性が一つポイントとしてストーリーに置かれているが、彼女たちも含め全ての人物の「大きな母親」として音楽が機能しているようにも感じた。

 キャストも見応えがある面々。トビー・マグワイア、マイケル・ケイン、ポール・ラッド、シャーリーズ・セロン、J・K・シモンズ…温かみのあるドラマを成立させるために十分なキャストが揃っている。今作はマイケル・ケインがオスカーを獲得しているが(調べたら、その時ノミネートされたライバル達はなかなかの強者ばかりでした)、今作は演技に関する評価よりもラーチ医師役がハマり役だったという点が大きいような気がする(いや、もちろん演技も素晴らしいのだが)。ラーチ医師が画面に登場するだけでばちっと画が締まる。いやぁ、素晴らしい。そして孤児を演じた子役たちもまたすごい。毎度子役の演技力の高さに驚かされます。ちなみに孤児の一人であるバスター役を演じたのは、マコーレ・カルキンの弟キーラン・カルキン。顔がそっくり!それにもちょっと驚きました(笑)

 あとは色々、印象的なものや行為が登場したのが興味深かった。波の力でカドが取れて丸くなったガラスの破片。焼却炉。そしてサイダーハウス・ルール。色々考察しても面白いと思うのだけれど、ここで私が言うと鑑賞の面白さが半減すると思うので、是非鑑賞してあれこれ考えてみてください。

 ハルストレム作品が好きなら、是非鑑賞を。心を落ち着かせてゆったりしながら観て下さい。
うめ

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