せみ多論

サイダーハウス・ルールのせみ多論のレビュー・感想・評価

サイダーハウス・ルール(1999年製作の映画)
4.0
ざっくりと言ってしまえば、孤児院で育った主人公ホーマーの成長の物語。
狭い世界から広い世界に出て成長していくホーマーを軸にして、堕胎や近親相姦、病や死など暗いテーマを扱っているのも関わらず、作中の雰囲気は非常にさわやかというか、とても穏やかな時が流れているような気持ちで鑑賞できる。

まず本作は描写がトビキリ美しいと思います。個人的にはいくつか出てくる道を行くシーンがとても綺麗で印象的でした。雪道やあぜ道や線路道どれも見入ってしまう、吸い込まれるようなシーンでした。

そして音楽もとても素敵。穏やかで優しいメロディーが重いテーマを優しく包んでくれる。いい意味で耳に残る名曲の数々だと思います。

あまり内容には具体的に触れたくないので、お勧めだけします。
一点だけ言わせていただくなら、作中の人間は誘惑にも負けるし、泣くし笑うし嘘もつく、良い面もあれば悪い面もある、とても人間味があるというか、リアルさを感じさせます。ミスターローズがしたことは間違っていたのかと考えた時、自分は安易に答えを出せない。彼が雨の中飛び出していった時の気持ちを考えると胸が苦しくなる。とても愛しているのに、それが相手を苦しめているのならどうしたらいいのか。それが一般的に禁忌であるのもわかる。この不器用で悲しいミスターローズがとても印象に残った。

懐の深い映画と言うか、自分の価値観や倫理観を見直すきっかけになるかもしれない、とても見ごたえのある一本だと思います。
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