桃子

8 1/2の桃子のレビュー・感想・評価

8 1/2(1963年製作の映画)
4.5
「元ネタは素敵」

実を言うと、「グランドフィナーレ」を見た直後に鑑賞した。そのせいで、あんなレビューが書けたわけなんだけれど。なにしろ初見ははるか昔のことで、内容はほぼ覚えていなかった。あらためてオマージュの部分がわかって、非常に面白く、興味深く見ることができた。
アーティストにスランプはつきものだ。才能があって成功し、名声を得た後の方が陥りやすいだろう。次回作に期待され、少しでもレベルが落ちると期待外れだとけなされる。フェリーニ監督自身の悩みや苦悩や焦りが、そのまま映像化されているのだから、見ている方も切なくなってくる。
この映画では監督が映画を撮影するシーンは出てこないけれど、映画制作の舞台裏を垣間見ることができる。女優のカメラテストのシーンがとても興味深かった。一番リアルだなあと感じたのは、スタッフのひとりが映画の予算のことを話している場面だ。新作映画はどうやらSF映画のようで、屋外にロケットの発射台が作られている。そのセットに莫大なお金がかかっている云々というくだり。予算がないと映画は作れない。ふと、テリー・ギリアム監督の苦労を思い出してしまった。
監督自身が見たとおぼしき夢のシーンがよかった。夢だから意味不明でシュールなのだけれど、この不思議ちゃん加減がたまらない。自分の映画で起用した大勢の女優が監督の家に集結して、しゃべったり叫んだり踊ったりするシーンは、ゴージャスだけれど少し不気味で、監督が追い詰められている感じがよく伝わってくる。
個人的には黒縁眼鏡のアヌーク・エーメに萌えてしまった。地味な服を着て、監督の奥さんの役を演じている。音声と口の動きが全く合致していない。彼女は終始フランス語で台詞を言っていたのだろう。昔のイタリア映画に、母国語がイタリア語ではない人が多く出演しているのは、今こうして見ると実に眼福だなあと思う。とはいえ、多少の違和感は否めない。そこは我慢するしかないんだけど。
フェリーニ作品はまだまだ見たいものがたくさんある。この次は、是非とも色つきの映画にしてみよう。
桃子

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