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月は上りぬのdiesixxのレビュー・感想・評価

月は上りぬ(1955年製作の映画)
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田中絹代監督作だが、脚本は小津安二郎でカメラワークや台詞回しに強く影響を感じさせる。油断して見ていると小津作品と間違えてしまいそう。
でも随所にガールズムービーっぽさはあって、ぺちゃくちゃ喋りながらストッキングを脱いだり、彼氏に毛糸を持たせる節子(北原美枝)の奔放な魅力が映画の推進力になっている。中盤の万葉集を使ったやりとりも、小津には気恥ずかしくて難しかったのだろう。
節子の恋人、昌ニは友人思いで、いつも節子に調子合わせるいいやつだったのに、終盤になって「飯を炊け、洗濯もしろ、笑顔でいろ、その代わり俺が可愛がってやる」というクソみたいなモラハラプロポーズ。それで節子が、あえなく「家庭」へと回収されていく悲しい結末だった。
田中の女性映画が、小津のパターナリズムに敗北したとも取れる。この映画の公開をめぐり、溝口にもだいぶ足を引っ張られたようだ。成瀬にも助監督時代にパワハラされてたし。田中の評価が遅くなったのは、日本映画のそうそうたるレジェンドのグロテスクな側面を照射する存在だったことあるのでは。
強烈な光に照らされ、勝手に人に愛でられ、裏側には暗い闇が張り付いている。田中氏の当時の立ち位置自体が、月のようであるといえば穿ち過ぎだろうか。このフラストレーションが次作で爆発することになる。
それにしても北原美枝ってこんなに魅力的だったのか!と驚き。そんな彼女も5年後には裕次郎と結婚し「内助の功」へ。存在自体が、日本映画の男性神話を皮肉に問い直す異形の傑作。
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