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ハリーとトントのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

ハリーとトント(1974年製作の映画)
3.9
この湿り気のある笑い。もの悲しいのに消え行くものへの惜別でもない。猫と老人のロードムービーなので猫目当てで観たら、過去を抱え明日を生きようと今をもがく人に、光を与えてきた一人の元教師の姿が浮かび上がってきました。与えることから与えられる立場になり、旅の途中で出会った人々から学んでいく姿もまた教師としての生き方。まだその年齢と境地に至っていませんが、期待以上の奥深さでした。

「私は過去を覚え過ぎている」というハリー。アパート立ち退きで、子どもたちの家を点々とし、アメリカを横断します。猫のトントと一緒に。

ハリーの旅はGO WESTでした。
NYの資本主義に抵抗し、
シカゴの新しい時代の知識と教養とぶつかり、
コロラドの若者を引き付けるヒッピーコミューンの如何わしさと魅力に葛藤を覚え、
アリゾナの野性的な根元的な欲望に開花、
ロスでエンタメ業界の勝負の厳しさを見る。

だんだんと出会う人々がディープになっていくのがおもしろく、70年代のアメリカの文化が垣間見られました。

スピリチュアルや禅に惹かれる若者たち、直接的な表現をしませんが、個の自立と意思により全体主義(ベトナム戦争への同意)を暗に否定していました。人種の差別と多様性についても柔らかく描いています。

声が頗る良く、舞台コメディアンでもあったアート・カーニー、歌も披露。本作でアカデミー賞主演男優賞を受賞しています。まだ50代なのに老人を自然に演じられて素晴らしい演技でした。監督は最初ジェームズ・キャグニーに打診したら引退したと断られています。実現したらまた違った個性が観られたかもしれませんが、カーニーの舞台俳優の演技に引き込まれました。

猫トントからハリーは共生を学んでいました。また猫トントは、家族の象徴であり、ハリーが野心をあきらめた理由でもあります。何度も成功への道を途中下車しては、家族を思ってきた優しいハリー。


穏やかで、とても染みました。もう一度味わいたい作品です。
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