南森まち

おろしや国酔夢譚の南森まちのレビュー・感想・評価

おろしや国酔夢譚(1992年製作の映画)
4.8
江戸時代後期。嵐にあった廻米船が半年間の漂流の末、離島に辿り着く。そこでロシア人と邂逅した彼らには、さらに数奇な運命が待ち受けていた…というお話。

原作は史実を元にした井上靖の長編小説(1968)。18世紀のヨーロッパの主役の一人、ロシア帝国女帝・エカチェリーナ二世との謁見を果たした、伊勢の船頭・大黒屋光太夫の物語です。

ハリー・ポッターばりのテンポの良さで、5分おきに怒涛の展開が起きるので、見ていてまったく飽きない。
細かい時代考証の問題はあるが、そのぶん理解しやすく出来ている。漁師のボロボロの服装や、ソ連崩壊直後のサンクトペテルブルクで撮影された映像のリアリティーもすごい。
音楽も交響楽がふんだんに使われており素晴らしい。突然音楽が止まる演出にも驚かされる。
会話の7割はロシア語。緒形拳さんがんばったな!邦画なのに、日本が出てくるのは最後の15分だけ!

ロシアにたどり着いた光太夫たちは、漂流民の生活の面倒を見てくれる先進国のルールにただただ驚く。
一方、ロシア側も一介の船頭が読み書きの教養があることに驚き、日本という国の見方を変え始める。
字の読み書きができる光太夫や、若い磯吉・新蔵はロシアになじんでいく一方で、凍傷で片足を失った庄蔵や、老いてロシア語をおぼえられない小市は次第に心を病んでいく…。果たして彼らの運命は!

大黒屋光太夫たちは1783年、シーボルト事件は1828年、ジョン万次郎が流されたのは1841年。そして日本の開国は1854年。
紛れもなく光太夫たちは、当時の海外に通じた最先端の日本人だった。しかし封建的な江戸幕府はそれを活かすことなく幕末を迎える。
歴史にifはないけれど、少し何かが違っていれば日本の進む道は大きく変わっていたかも。

「おろしや国」はロシア、「酔夢譚」は酒に酔って見た夢物語。英語の題名は”Dreams of Russia”。
オープニングの字幕説明の「この物語はアメリカが独立して間もなく、そしてフランス革命がおこる直前の1782年に始まる。
激動する世界をよそに、日本はいまだ百五十年来の鎖国の眠りから目覚めなかった…」
がこのストーリーの肝を簡潔に語っておりカッコいいのだ。

光太夫の「おろしや国の王が、どいつ人の女性…!?」というセリフは今でも驚くわ😅
世界、激動しすぎ!

オススメです!