たむランボー怒りの脱出

肉屋のたむランボー怒りの脱出のレビュー・感想・評価

肉屋(1969年製作の映画)
4.5
おもろーーーい。寝台に載せて運ばれる瀕死のジャン・ヤンヌとそれを見守るステファーヌ・オードランの顔の切り返しのときオードランがほんのり笑うカットが一瞬だけあって「なぜ?」という奇妙な印象を残すが、死にゆく者に対して笑顔を見せてやるというのは、想像を働かせれば理解できないこともない。しかし、その寝台のジャン・ヤンヌが首の角度からして既にほぼ死んでいるかと思いきや、手術に向かうエレベーターに入る直前でグッと上体を上げて女に「キスしてくれ」と言う、思わぬ元気っぷりを発揮する、こっちの方がむしろ不気味ではある。心情としては理解できないこともないのだが、その上体の起こし方の素早さに驚いてしまう。愛情の表現としてステファーヌ・オードランはわずかに表情筋を動かし口角を上げるという最小限の運動にとどめたものの、ジャン・ヤンヌはそれ以上の運動を要求するべく自らの生命を縮めるほどの素早さの運動を披露し、目の前の女性からの接吻をせがむ。全編を通してずっとジャン・ヤンヌはステファーヌ・オードランを仰ぎ見る存在として写される。