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グリーンバーグ/ベン・スティラー 人生は最悪だ!のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.4
 アメリカ・ロサンゼルス、緑生い茂るなだらかな別荘地、等間隔に鉄塔が張り巡らされた田園地帯。フローレンス(グレタ・ガーウィグ)はマーラーと呼ばれる犬の散歩をしていた。一旦家に犬をつないだ後、車に乗り街まで降りて行く。その横顔をカメラは助手席から据える。やがてクリーニング店に立ち寄るが、引き換え券を忘れたことに気付いた彼女は、「フィリップ・グリーンバーグさんの荷物です」と説明する。何とか荷物を引き取った彼女は再び邸宅に戻ると、その家に住む娘が笑顔で迎え入れる。マーラーと家でお留守番をしていた彼女は、グリーンバーグ家のお手伝いさんとして働いていた。家長であるフィリップ(クリス・メッシーナ)と妻キャロルは3週間分の給料を小切手ではなく、現金で手渡す。今年で25歳になった彼女は大学を卒業してから、何とはなしに時を過ごしていた。数年間付き合った彼とは最近別れたばかりで、彼女は実業家のお手伝いとして頑張ろうとしていた。そんなある日、グリーンバーグ家は6週間のベトナム旅行へ向かうことになり、フローレンスは愛犬のマーラーの面倒を見ることになった。だが最近精神病院を出て来たばかりのフィリップの兄ロジャー(ベン・スティラー)がNYからLAへやって来る。フィリップはフローレンスに、何かあった時だけロジャーを助けるように説明し、兄ロジャーには6週間でマーラーの犬小屋を作ってくれるよう依頼する。

 『イカとクジラ』で4人家族の不和、『マーゴット・ウェディング』で久々に会った姉妹の不和を描いたノア・バームバックは、今作ですれ違いの再会を果たす兄弟の不和にフォーカスする。大学時代、ギタリストのアイヴァン(リス・アイファンズ)と一度はメジャー・デビュー直前まで行ったものの夢破れ、単身ニューヨークへと渡った男の姿は、『マーゴット・ウェディング』の挫折した中年であるマルコム(ジャック・ブラック)とも重なる。生まれ故郷のLAに戻って早々、かつての親友のアイヴァンに連絡を取るロジャーの歩みは明らかに20代で止まっており、結婚・子育てを経験した同世代との溝は埋まらない。航空会社のリクライニング・シートや騒音公害、スターバックスにクレームをつけるロジャーの病巣は、恋人との関係が終わり、やけっぱちになるフローレンスと重なり合う。コロナ・ビールを2人で分けあってからの突発的な情事(射精はない)の後、ある種の気まずさから癇癪を起こす男と寛大な女の姿は、バームバック作品の根幹をなすような男女のレイヤーの差異を見事に紡ぐ。孤独な癇癪持ちのロジャーが吸い込まれるように入ったシルバーレイク・ラウンジでのフローレンスの目配せと牧歌的なカントリー・ミュージック、翌朝彼の心を満たしたGalaxie 500『Strange』の轟音、自己免疫疾患でダウンした愛犬マーラーにロジャーは自分の姿を重ね合わせるが、彼よりも先にヒロインに訪れた人生の休息時間。カレン・ダルトンを入れたセレクトCD-R、リップクリームをひたすら塗り続けた男に訪れた結末、惜しげも無く裸体を晒したグレタ・ガーウィグの熱のこもった演技。全てが素晴らしく愛おしい!!
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