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甘い汗のkaomatsuのレビュー・感想・評価

甘い汗(1964年製作の映画)
4.0
ヴァンプや妖怪、 すれっからし、芸妓や芸事の師範、クラブの女王、殺人鬼など、どちらかというと非日常性の強い、気張った役どころに本領を発揮し、はたまた着物にビシッと袖を通したら天下一品、着付けの師範クラスをも惚れ惚れさせる京マチ子が、生活臭漂うダメダメな女性を演じた貴重な作品。トータルな芸術映画としては、やはり『羅生門』『雨月物語』に軍配が上がってしまうが、京マチ子の主演作の中でも、その持ち得るポテンシャルのすべてを、まさに滴る汗の一滴一滴まで惜しみなく出し切った点では、本作以上の演技にはいまだ出合っていない。

いきなり場末のバーでのキャットファイトから始まるあたり、いかにも京マチ子らしいが、今回ばかりは、強さをアピールすればするほどダメ女っぷりが露呈されるような役どころだ。下町でバーの女給をしている梅子(京)は、父は亡く、狭い二間のアパートに、母親(沢村貞子)と二人の弟をはじめ大所帯で暮らしている。水商売をする梅子を、世間体を気にする家族はそろって疎んじているが、唯一、娘の竹子(桑野みゆき)だけは素直で明るく、へこたれず前向きなところは梅子と似ている。ある日、梅子はかつての恋人・辰岡(佐田啓二)に再会する。ヤクザ家業をしている辰岡は、梅子の厳しい生活を知ると、家族の面倒を見ようと話を持ちかけ、一軒家に住わせてやると言うのだが…。

生活のためには手段を選ばず、体を張って商売をする梅子のキャラクターは、本作より13年ほど前、ちょうど『羅生門』の頃、同じく京マチ子が演じた、吉村公三郎監督の『偽れる盛装』の主人公・蝶君を彷彿とさせる。しかし、まだ若い蝶君とは異なり、梅子の場合は女性を武器にするには微妙な年齢であり(京さん40歳くらい。現代なら十分若いけど)、その悲哀感が本作の見どころとなっている。寄る年波に勝てず、バイタリティーはあっても常に空回りする梅子を演じる京マチ子が、 恥も外聞も捨て去った女の開き直りと弱々しさを赤裸々に表現。いつになく深い哀愁を湛えていて、その存在感はもはや演技を超越している。対照的に、そんな梅子のあおりを受け、何かと憂き目に遭いつつも、家族の中で唯一人、不満ひとつ言わずに明るく生きる娘の竹子を、桑野みゆきが健気に演じていて、とても切ない。小沢栄太郎、沢村貞子、 池内淳子ら、脇役の名演技を最大限に引き出す豊田四郎監督の手腕が冴え渡り、残念ながら本作が遺作となった佐田啓二が、ワルイ男を演じるのも意外な見どころだ。
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