あなぐらむ

嵐を呼ぶ男のあなぐらむのレビュー・感想・評価

嵐を呼ぶ男(1966年製作の映画)
3.2
チャンネルNECOの芦川いづみさん特集で。
裕次郎の当たり役を渡哲也主演でリメイクした一本。監督はオリジナル版の井上梅次の直系の弟子と言ってもいい舛田利雄、北原三枝の役どころを芦川いづみが演じる…んだが、これがどうにも不思議な作品に仕上がった。

その後のパブリックイメージを差し引いても、渡哲也に流しのドラマーという役どころは水と油、ジョッキに松竹梅という感じでミスマッチ。加えて勝気なヒロインを演じる芦川さんも、相当頑張ってると思うがどうにも線が弱い。
裕次郎・三枝の二人が、極めて戦後モダンなカップルだった事を痛感させられる事となった。

井上梅次の物語というのは石坂洋二郎作品に近い所があって、主人公男性と母親の相克を描いてもそこに強いマザーコンプレックスの香りが立ち込める訳だが、「大幹部 無頼」などの池上金男脚本はモダンでバブリーな香りを削ぎ落した雑草人生を描き、しかも死んだ筈だったお父ちゃんもうらぶれて登場してしまうので、全然爽快感が無い。
これは舛田利雄の監督としての資質であり、スタイルでもあるのだが、彼は一貫して地べたに居る人があがく姿、変わってしまった立場、関係の前で分かたれる人を描くので(「赤いハンカチ」参照)、ドリーミンな物語に寄せて行く事ができない硬派な作劇になってしまうので、ドラム対決で渡さんが「おいらはドラマ~♪」と唄い出したとこでズコーッってなってしまうのだ。
これは本作にとってはクリティカルなんである。ここが一番映画的なんだから。

渡哲也の弟に漸く台詞も増えてきた藤竜也、オリジナルとは違いレーサーを目指す設定で、自身でレースカーを運転するシーンも演じている。哲也&竜也の兄弟を玩ぶご令嬢に太田雅子(aka.梶芽衣子)。まだほっぺたパンパン、青春スター時代。(この二人が「野良猫ロック」シリーズの主軸になるわけだ)
二人の母親役が山岡久乃なもんで、余計に貧乏くさい感じになっている。
女体デッサンが趣味のしょぼくれた父には、結構はまってる宇野重吉。息子と再会する新宿のヌードデッサン(という名の風俗)店の件は、風俗史的に見所。藤竜也の彼女に新人クレジットの由美かおる。お猿さんみたいで可愛い。

芦川さんの軌跡としては、やはり前年の「結婚相談」でやる事はやっちゃった所で、後進である若手スターに律儀につきあったようなそんな芝居ぶりで、言ってしまえば芝居の質が変わり始めた時代に、オールド日活の芝居を一人やっているような、観ていてこっちが居心地が悪い一本である。
ただ、撮影が萩原憲治なので、女性を撮らせるととにかく艶めいて美しいので、そこは大いに愉しみたい。