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晩春のbluebeanのレビュー・感想・評価

晩春(1949年製作の映画)
4.5
母を亡くして2人で暮らす父娘の愛情と、結婚によってその生活が終わりる切なさ。『秋刀魚の味』とほぼ同じ設定ですが、本作の方がまだ結婚を前向きに捉えており、ストレートに感動できる作品でした。小津監督の演出スタイルの素晴らしさは相変わらすで、挿入される当時の北鎌倉の風景がまた良いです。

原節子の演技の存在感がすごくて、前半ニコニコし過ぎていて若干違和感を感じさせつつ、あることをきっかけにして、影のある、むしろ少し恐ろしいほどの表情にいっきに切り替わるところが圧巻です。お見合いした後のシーンでとたんに笑顔になる紀子、その後結婚決める時の暗い顔、父との旅ではニコニコ。感情の起伏が原節子の表情でダイナミック描かれていて、落ち着いた作品でありながら飽きさせません。

長い能鑑賞のシーンがありますが、これ絶対に能の演目に意味があって、教養のある人だけが分かるやつだろ、と思い調べてみると案の定。演目の内容を知っているといっきに深みが増すすごいシーンのようです。いやでも、さすがに知らないですよ・・。能の後、歩く2人を珍しくカメラを動かして撮られたシーン、微妙に離れて歩く2人を背中から追いかける構図が印象的です。

父が結婚について語るシーンは感動的ですが、個人的には、論理的で冷静な話を淡々と語る父の姿に、その後1人になるんだよなあ、という想像が合わさってなんとも切ない想いに駆られてしまいました。結婚で幸せになるかは五分五分で努力次第、というのは当時も今も変わらない現実なのでしょう。

ラストにちょっとしたどんでん返しもあります。それを考えると、結婚が理由で2人に断絶が生まれていたんだなと、なんとも言えない気持ちになりました。
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