父・笠智衆と、娘・原節子の気持ちのやりとりが思いのほか激しく、晩年の小津安二郎作品の出発点にふさわしい色合いを手に入れていると思う。なんとなくだけれど、この作品に手応えを感じて、ここから小津は自分自身の作品を固めていったような気がする。
ただ娘を気遣う笠智衆はきょとんとした表情をしているけれど、原節子は父親に対して、時に挑むような表情をする。それはもう娘の表情ではなく、明らかに女の顔だ。
見合いをして、父から未来の夫へと無理矢理にでも気持ちを移そうとする原節子の抑えた演技がとてもいい。杉村春子演じるおばさんは、現代なら本当にお節介なだけの存在だろうけれど、この映画の中では父娘の恩人である。
これを見た後に『東京物語』を見ると、原節子が格段に上手くなっていることに気づき、同時に小津が自らの作品に織り込もうとした人の気持ちの深さ、凄みを思い、なんとなく怖ささえ感じてしまう。